定年後の読書ノート
動物社会―人間社会への道標、宮地伝三郎著、筑摩書房
著者、宮地伝三郎氏の岩波新書「アユの話」「サルの話」を面白く読んだのは、まだ独身時代だった。動物世界にも、社会のおきてがある。これを知れば知るほど、動物世界が面白くなる。しかしあれから40年が過ぎた。もう、すっかり動物世界を書いた本から離れてしまい、人間社会の本ばかりに関心を持ち過ぎてきた。これから少し人間社会を離れて、人間を遠くから見てみたい。

羽に五郎氏が「都市の原理」で、霊長類研究者を、「人類に発展しなかった、絶滅していった霊長類を研究して、そんなもの何になるのか、国家予算の無駄使いだ」と主張している箇所を読み、一体羽仁五郎氏何を昂奮して力んでいるのか、不思議に思ったことがあった。

動物社会の観察記録を読むと、実に人間がはっきり見えてくるから面白い。すなわち、ある一定の環境条件、例えば、食糧に供給限界がある場合、生存地域の居住性に限界がある場合、自己直系の種保存の競争に勝ち抜きたいと相手を威嚇せねばならない場合、こうした諸条件の場合に、生あるものは如何なる態度で自己の要求を押し通すのか、これは結論を人間ばかりに偏らないで、サルや、ゴリラや、チンパンジーの世界でじっくり見つめていくと、そこにある一定の生存システムが見えてくる、これを人々は動物本能と軽く処理するがそれがいけない。

動物社会の問題は、そんなに簡単に結論づけて、処理できる問題ではない。むしろ、その条件下で、生物が必然的に創りあげていくひとつのシステムこそは、実に人間社会と相通ずるものがあり、そこに教えられるものが必ずあるはずだ。

競争社会では、必ず力ある者が勝者となり、弱者は常に勝者に服従する、結論はそう決まっていると言われるかも知れない。しかし、力を持つとは一体どういうことか、もっと突詰めて考えていくと、人間社会に共通する問題は幾らでも発見されてくる、これが面白い。

動物社会にも学び得る哲学が一杯ある。それはあたかも、歴史社会を学ぶのは、人が人間社会を知ろうとするがごときである。なわばり制の社会、順位制の社会、本能行動と文化行動、順位とリーダー、あいさつ行動、近親相姦の禁止、独裁制と順位の緊張など、テーマはいくつもあり、ひとつひとつの動物問題が、そのまま我々人間社会にも深刻に結びつく問題なのだ。

実は自分は今回この本に求めたのは、動物社会の老いの問題を知りたかった。縄張りや順位制の最高位に位置していた親サルやライオンが、老いてはじき出され、晩年をどう生きていくか、それを克明に追求した記録を読んでみたかった。しかし、残念ながら、この本にはそうしたテーマは載っていなかった。いずれまた、立花隆のサルの研究でも読んでみようと思う。

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