定年後の読書ノート
夫と妻のための老年学、水野 肇 著、中公文庫
65才以上の老人が人口の10%ぐらい占めるようになると、社会的にいくつかの異変ともいえる現象が出てくる。老後の生活費というのも気の遠くなるような数字になるが、本当に恐ろしいのは、老後になって生き甲斐のない人達ではないか。

老いは黙って忍び寄ってくる。それを避ける方法はない。大切なことは、若いときから心の喜びを持っていることである。年金と医療が重要である。しかし老人が幸福になるには、自分自身が老年というものをよく認識することである。

身体の中で最も早く老化するのは、眼である。歳をとると骨折し易くなる。老化はすべての臓器、器官におこる。呼吸器、循環器、内分泌器官、肝臓、なども老化によって障害をおこしやすい。成人病というものは、すべて老化現象なのだといって差し支えない。老化とはその生物の発生から死滅までの時の流れである。老化とは受胎から死への時の流れである。

老化の考えの一つは、細胞の数が減ることによって起きる。老化は免疫力の低下である。がんの発生率は年齢とともに対数的に増える。しかし老化そのもので死ぬことは案外少ない。老人は見かけは健康そうに見えても、実際には身体の異常が多い。老齢化の死因で注目されるのは、肺炎および気管支炎の増加である。若いときならカゼで済むところが、老人が肺炎になった時、ペニシリンなど抗生物質はあまり効かない。

成人病はなおらない。ある年齢以上では成人病と戦うのではなく、成人病と平和共存するという基本姿勢が必要である。老化した人間は、夜中の不整脈で静かに枯れ木が倒れるように死ぬことが多い。肥満が何故健康に悪いか。端的に言えば、肥満そのものが、成人の第1歩である。難破して漂流した時、肥満体の方が有利だろうか。どうも現実はやせているほうが、有利のようだ。肥満すると血管の総延長距離が増える。肥満体は糖尿病を誘発する。一度体外からインシュリンを補給すると、膵臓はやがてストップする。糖尿病になると動脈硬化が10年早くなる。脳の動脈が硬化するとおこりっぽくなる。

がんは交通事故と考えるのが妥当である。癌の原因の75%は発ガン物質である。炭水化物から蛋白質中心に食事が替ってがんは減少した。永久に生きる人は誰もいない。医学よりも人生観の方が重要である。人間の胃は気分の良いときは美しい色をしているが、おこっている時はドズ黒い色になる。

人間にとって重要なのは前頭葉である。ここはものを考えたり、創り出したり、創造の場である。新しい皮質の部分である。人間には生きる目標が必要である。それを失うと人間は病気になる。人間にとって退屈は敵だ。年をとって脳を使わないと脳の老化は加速度的に進む。

老人は死の話を好む。死はタブーではない。死を考えない老人は、人生の落伍者である。60歳になってから「現象学」を勉強しようと思っても無理である。それまでの人生で哲学の素養がなければ、いくら熱心にやっても現象学の輪郭も判らない。むろん現象学を応用した思考を展開することは無理である。老人の最大のテーマは、孤独から逃避するのではなく、孤独を孤独と感じないような生活をすることである。読書は無限の空想力がある。老後の20年間を幸せに送るために読書は良い。美術も同様である。そのためには眼を大切にしなければならない。

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