定年後の読書ノート
哲学の原風景―古代ギリシャの知恵と言葉―荻野弘之著、NHKライブラリー
哲学の始まりとしての古代ギリシャに面白い例えが載っていた。現代の哲学こそが身近で真理に近い思想なのだろうか。現代音楽を考えてみよう。現代芸術の前衛的な実験は、帰省の芸術概念を破壊し刷新しようとする意図に、鑑賞者にとって意味不明のままにとどまる。現代哲学もいたずらに難解な用語の行列に戸惑うばかりである。と。

面白いのは、ギリシャ哲学が主張した霊魂不滅の哲学。輪廻転生説。

人が死ぬとは、かたちのない霊魂と目に見える肉体とが分離することである。死ぬことによって、われわれを生かしていたかたちも重さもない霊魂がわれわれの体から出ていく。霊魂の離れた肉体はやがて時間の経過とともに解体腐敗して滅んでいくが、霊魂のほうはそれ自体として独自に生き続ける。そして、やがて別の新たな肉体へと入っていく。

これが「生まれる」ことにほかならない。つまり、新たな何かが生まれるということは、魂が衣服のようにある一つの肉体をまとうことである。しかもそれは必ずしも人間の肉体とは限らない。こうして人間が乗物に乗ったり降りたりする、あるいは、衣服を次々着替えていくように、次々と肉体を取り替えていく。しかし当の霊魂自体は決して死ぬことも滅亡することもない。

こうした思想は、現世を絶対視しないという態度である。この世に私が生きているということは、今たまたま偶然この洋服を着ているということに過ぎない。魂が純粋に魂だけになった本来の生は、現世を越えた向こう側にある。だから、死は決していとわしい出来事ではない。逆に生きている肉体とは、魂がその中に縛りつけられ、閉じ込められている一種の牢獄ないし墓場のようなものではないか。

この本はギリシャ哲学の全体像を非常に判りやすくまとめた本であり、NHK文化ゼミナール古代ギリシャの知恵とことば(1996年放送)をまとめたものである。

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