定年後の読書ノート
シルクロード11巻、騎馬・隊商の道、コーカサス・シリア・トルコ、江上波夫、
中国とソ連の国境、カザフ共和国イリ川に始った中央アジアのシルクロード取材は、キルギス、タジク、ウズベク、トルクメンの共和国を経て西に向い、ついにカスピ海に達した。

そこは、草原と砂漠の世界。アジアの最深部である。カスピ海の西コース、大コーカサス山脈が横たわっている。シルクロードはその山脈を北から南に越えて、さらに西の小アジア、トルコへと延びている。

NHK取材班一行はグルジア軍事道路をソ連側スタッフと走り抜けていたとき、峠の道で大交通事故に出合う。定期バスが20メートルの崖下に墜落しているのをNHK取材班が発見したのだ。バスの下敷きになって泣き叫ぶ人、転落の途中で放り出された人、30人近くが救いを求めていた。しかし、ソ連内部事情にNHK取材班の目を向けるなと指示を受けているソ連側現地テレビスタッフは、日本人にまずいものを見られたとでも思ったのか、あたふたと運転手に先を急げと指示した。

不幸なことに周りには走る車は1台もいない。事は急を要する。斎藤カメラマンは大声で叫ぶ。「車を止めろ」。即座に1台の取材車は警察に知らせる一方、もう1台に負傷者を乗せ病院へ運んだ。すでに息をしていない人も数多くいた。足や腕のちぎれた人もいた。7人が亡くなった。

この事故の後、それまで取材に神経を尖らせ、警戒心を向けていたソ連側現地スタッフが始めて心を開いてくれた。「ありがとう」「ありがとう」何度も握手を求められた。互いの心が始めて触れ合った温かい握手であった。

あれから20年後、実は、最近、NHKスタッフがパミール高原で、取材車が崖から転落し3名のスタッフが犠牲となった。現地取材がどんなに危険か、あの断崖絶壁の間をはうように走る現地道路を見た人は、このソ連側スタッフを怒鳴りつけた斎藤カメラマンの人間性を感動深く聞くであろう。

NHK取材班はユーラシア大陸を横断し、とうとう地中海に達した。ベドウィンと古代キャラバンを組んでシリア砂漠を横断したり、パルミラの列柱道路をラクダで歩く。パルミラとは、古代ローマとペルシャの間にあって、隊商都市としてかって繁栄を謳歌し、最後にローマに破れ消えた国である。

トルコ人とは西方起源か東方起源か、陳 舜臣氏の歴史物語も面白い。ヘレニズム文化の世界にいよいよ入ってきた。あと1巻で終りである。

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