定年後の読書ノート
シルクロード第5巻・天山南路の旅、陳舜臣・NHK取材班、日本放送協会
この本の前半分は、陳舜臣氏が、「火焔山のほとりー高昌国興亡記」を書いている。陳舜臣氏の文章はいつもそうだが、中国古典を原文で読みこなす人だけが扱える歴史情報を、自由に引用して、中国語独特の固有名詞や地名、年号が頻繁に出てくるきわめて厄介な読みにくい文章で、肝心のストーリが読みにくい。

要するに、隋及び唐という超大国に隣接し、西域の出入り口に位置し、一方匈奴という戦争攻撃力だけが、無性に強い強国に常時脅かされ、最終的に数万の中国軍に包囲され、これと戦う前に国王が死んでしまうという歴史物語を読んでいると、やはりくたびれてしまう。ここは矢張り井上靖氏の文章の方がはるかに良いと実感する。井上靖氏の文章は、ピーンと張り詰めた緊張感の中に、無駄な言葉はひとつもない。実にすがすがしい。

NHK取材班旅行記で面白いのは、トルファンからコルラまでの、南疆鉄道試乗記である。

天山山脈の東側に、すり鉢状に落ち込んだトルファン盆地、南北60キロ、東西120キロ、昔から火の州といわれた灼熱の地に、ゴビを走り、天山を貫き、タクラマカン砂漠に至る鉄道を、中国は1976年に着工し、1979年全線470キロレール敷設終了、ここを1860年6月突貫工事直後の南疆鉄道をNHK取材班は1週間かけて、特別列車を仕立てて試乗する。これが面白い。

ここでも問題点は、中国軍の取材制限だ。やはりタクラマカン砂漠には、中国の巨大な秘密軍事基地があるようだ。トルファンを出発した取材列車は、時速3、40キロのゆっくりとした速度で、ゴビ砂漠を西へと向かう。遠い昔、ゴビを横切る旅人達は、この天山山脈から吹き降ろす強烈な北西風に立ち向って進んだ。列車で走れば1時間ほどで到着するこの強風地点を、歩けばたっぷり1日はかかる。水も食糧もない砂漠の道を、昔の人はどのように旅をしたか、居心地の良い列車の中から、広漠たる砂の海を眺めながら取材班は感動する。

海抜3千メートル、眼下に草原が広がる。南疆鉄道が草原いっぱいに大きなS字状のカーブを描きながら、天山の奥深く伸びている。環境保護に厳しい日本では、これほど美しい大草原に、こんなにも大胆な鉄道建設を進めることは不可能であろう。草原のまわりには、天山の高峰が幾重にも重なっている。どこまで見渡しても山また山である。

こうした風景を、NHK取材班はテレビで私たちに見せてくれる。これこそ、現代の大探検物語でる。

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