定年後の読書ノートより
騎馬民族国家(日本古代史へのアプローチー改版−)、江上波夫著、中公新書
著者江上波夫先生は、1906年生まれ、東大東洋史学卒業、東大名誉教授。1991年文化勲章。この本は、極めてショッキングな日本古代史のお話であり、発行当時はさぞかし物議をかもしたに違いないと思うが、それも今から何十年前のこと。残念ながら、その当時自分は、この歴史分野にはあまり好奇心を持っていなかったので、江上論争の顛末は知らない。最近、JICAの仕事で、ウズベキスタン訪問を機にシルクロード・西域の歴史物語への強い関心と、哲学セミナーで学ぶ網野先生の古代史「日本とは何か」を読むようになってから、急速にこの分野への知的好奇心は高まっている。

江上先生のこの本は、2部から成立っている。第1部は「ユーラシアにおける騎馬民族」と題し、スキタイ、匈奴、突蕨、鮮卑等の、東大教授ならではの、詳細な歴史物語である。記述の中で著者曰く。「夫余、高句麗は、我が国の最初の統一国家の建設者、いわゆる天孫民族と特別親縁な関係があった」。しかし、第1部から第2部への歴史舞台変化にはこの本を読む読者はびっくりする。余りにも劇的展開が待っている。

第2部「日本における征服王朝」は<日本国家の起源と征服王朝><日本統一国家と大陸騎馬民族><日本民族の形式>の3章よりなる。

思えば、かってエイリアンという宇宙人登場のSF映画が流行した。この本では、日本古代天皇家を創立したのは、エイリアンならず、東北アジアの騎馬民族であるとの新学説を東大教授が発表したから世間は驚いた。

江上先生は、慎重に書き出している。「自分は、岡、八幡、石田3氏と「日本民族=文化の源流と日本国家の形成」と題して座談会を持った(1949年「民俗学研究」)」。自説の内容は、「東北アジア系の騎馬民族が、まず南部朝鮮を支配し、やがてそれが弁韓(任那)を基地として、北九州に浸入し、さらには畿内に進出して、大和朝廷を樹立し、日本における最初の統一国家を実現した」というものであったが、本書では、「そのようにして畿内に樹立された征服王朝・騎馬民族国家が、その社会、政治、軍事、文化の各方面において、内陸ユーラシアから東北アジアの騎馬民族国家の社会、政治、軍事、文化が一致するばかりではなく、しばしば細部にいたるまで具体的に符号している」ことをあきらかにし、自説論拠を一層大きな立場、背景から証明しようとされている

江上先生は、弥生式文化、ないし、前期古墳文化と後期古墳文化とではその性格に本質的な相違があり、その間の推移はむしろ急転的・突発的で、そこに一貫性・連続性が欠けているように感じられると、まず歴史背景のポイントを力説される。

先生の論点は、(1)記紀の神話、伝承を中心とした広義の民族学的・歴史学的研究。(2)古墳および出土品を中心とした考古学的研究、(3)中国史に見えるこの時代の東アジアの形成とくに日本、朝鮮を中心とした歴史学的研究にある。

さて、遅れてこの古代史世界に好奇心を寄せてきた小生、これから江上説をめぐって、天皇家とはどんな歴史経由で登場してきたのか、歴史家論争をゆっくり楽しんでいきたい。

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