定年後の読書ノート
トルストイの復活 第2編、北御門二郎訳、東海大学出版会
ニェフリュードフは3つの仕事を同時進めた。マスローワの再審を大審院に上訴すること。いずれにしても、自分はマスローワと一緒にシベリヤに行くつもりであり、その前に自分の領地を農民達に返し、彼らの組合に経営を任せること、監獄につながれる無実の人を助け出し、彼らの正義を理解したい。懲役女と結婚しようとしている自分を周囲の人々は皆好奇な目を持って眺め、叔母は「ニェフリュードフの阿呆」としかりつける。しかし彼の信念は固い。民衆の衰減に心傷め、貧困の原因の一つである土地所有の問題に、自ら土地解放を決意する。彼は自分に何が起こるかを気にするのではなく、自分は何を為すべきかを考えた。マースロワは、彼の思いつめた行動に困惑しながらも、素直に喜びを表すことは出来なかった。彼自身の心の中にも「シベリヤに向けて発つのはいいことだろうか、自分の冨を放棄するのはいいことだろうか」というつぶやきはあった。

ニェフリュードフは、貴族社会の愛欲生活を思い出し、「人間の中に潜む獣性のいとわしさを思い、その獣性から脱し、精神生活の高みに立った時、獣性が偽って、善と悪との見境がつかなくなった自分を想像すると恐ろしい」とつぶやく。

そして曰く「自分は自分の良心が要求するように生きれば良い」。自分がマースロワを愛するのは、自分の為ではなく、彼女の為であり、神のためなのだ」。そう心に決めたとき、マースロワの行動がどうあれ、自分はシべリヤに一緒に行こうと決意する。

ペテルブルグで見た貴族社会は、もうニェフリュードフにとっては、遠い存在だった。出世に自分の良心を忘れてしまったかっての親友セレーニン、不倫の信号を送る人妻マリエット、しかしもうニェフリュードフにとって、貴族世界は遠い世界だった。

監獄からの出発の日、7月の太陽で5人の死者を出しながら、だれもその責任を取ろうとしない護送。ニェフリュードフ公爵は、3等列車の人間味なある車内風景に心を安らげながら、シベリヤへの長旅を出発した。

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