定年後の読書ノート
米欧回覧実記再読1、久米邦武著、岩波文庫
明治4年、1871年12月23日、遣欧米特命全権大使岩倉具視、副使木戸孝充、大久保利通、伊藤博文、山口尚芳等一行104名の岩倉使節団は、横浜からサンフランシスコをめざして1年9ヶ月の旅に出発した。そしてアメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、ロシア、デンマーク、スウェーデン、イタリア、オーストリア、スイスの12カ国を回覧し、1873年9月ふたたび横浜に帰ってきた。

岩倉使節団の平均年齢30歳、明治政府の薩長藩閥実力者をトップに、幕末旧幕臣をふくめ、日本の近代化をリードした有力者の渡航だった。著者久米邦武は33歳で使節団に加わり、帰国後1人でこの米欧回覧実記を執筆している。

かって自分はトヨタ産業技術記念館企画に際し、この実記を読み感動し、品川にある久米美術館を訪れ、学芸員に面接、大久保利謙氏のご子息ともコンタクトをとり、実記に記された久米邦武氏の明治維新における世界繊維産業史観をさらに具体的につめていったこともある

この度、あらためて、田中彰氏の「脱亜」の明治維新―岩倉使節団を追う旅からーNHKブックスと併読しながら、再読を開始した。

明治維新の若き指導者達に資本主義先進国アメリカはどう映ったか彼等は後進国日本と先進国アメリカの格差を、その衝撃下でどう理解したのか文字通りの体制側から見た新時代の変革へのポイントを何処に措こうとしたのか彼等のカルチャーショックと、その改革指向への意気込みはどうだったのか先進国アメリカは、日本の指導者をどのように処遇したのか彼等一行は、南北戦争に現れた民主主義の時代の夜明けをどう受け取っていたのか。この本は、文語調で書かれ、なかなか読みにくいものではあるが、読み始めるとぐいぐいと引き込まれていく。

それにしても、著者久米邦武氏は、すごい実力の人だったと思う。言葉もままならず、事前学習資料もままならず、しかも毎日ぎっしりと組み込まれた日程の中で、よくぞここまで、詳細に見学記をまとめられたと敬服する。明治の人はすごいとかねがね実感しているが、久米邦武氏のこの実記を読んだだけで、その実力が思い知らされる。

自分も随分と海外を歩かせてもらった。好奇心が人1倍強い自分は、海外では見るもの聞くもの刺激は強く、それらを自分のものにしたい要求で、出張中はいつも昂奮の中にあった。しかし、久米邦武氏は違う。実に冷静に見つめ、冷静に記録を重ねていく。

当時の詳細な公式資料は、なんと当時の宮内庁の火事で全て焼失してしまったとのこと。その後での、この実記編集である。久米邦武氏はこれだけの詳細な記録を、よくぞ自分の資料だけで編集されたと敬服する。

兎に角読んでいて面白い。どきどきする。明治の田舎からぽっくりと世界の最先端アメリカに落下傘着陸して、工場を見学、学校を見学、町並みを見学、軍隊を見学、ナイアガラを見学、港湾施設を見学、パーティーに出席、最新ホテルに宿泊、兎に角見るもの聞くもの全て驚くことばかりである。しかし、渡米の目的は観光ではない。日本国家をどうするか、日米通商条約改定を如何に進めるか、任務は重大である。世界的、歴史的視点からの米欧回覧の日々である。緊張感が伝わってくる・

アメリカを終え、いよいよヨーロッパに向かう。最初はイギリスだ。このイギリス編はすでに何度も読んだが、読む度に感動する。明治の諸先輩は素晴らしかったと。

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