定年後の読書ノート
はじめての工学倫理、斎藤了文・坂下浩司編、昭和堂(2001/4)
技術士である友人の本林君にこの本を貰った。この本は15の事例分析からなる。具体的な事例紹介と執筆哲学先生が考える哲学者からみた事例解決方法が示されている。

こうした本が出版されるところに、日本のPL問題の深刻な現状がある。資本のあくなき利益追求第1主義、いずこの企業も企業内情報は外部非公開であり、戦後長く語られてきたように企業内には憲法なしとする企業風土である。しかし、こうした歴史背景について哲学先生誰一人書こうとはされない。

事例7に、雪印乳業集団食中毒事件が取り上げている。内部告発について、この本ではこう書いている

内部告発する前に、それが道徳的に許される条件と、道徳的に義務となる条件を自分でチェックすることが大切だと。内部告発は、自分の所属する組織の内部で行なわれている不正を外部に漏らして、その不正を止めさせようとすることだ。内部告発は、組織の社会的イメージを著しく損ない、金銭的にも大きな打撃を与える。また内部告発者は、現段階では、たいてい法的に保護されていない。だから最悪の場合解雇されることがある。(解雇は当然だとする哲学先生の書き方そのものに怒りを感ずる。)したがって、内部告発は、組織によっても個人にとっても好ましい手段ではなく、慎重に行なわねばならない「最後の手段」なのだと。

内部告発が道徳的に許される条件は次のようなものだ。問題を放置すれば公衆への明確で重大な害があり、決して組織への個人的な恨みが動機ではないこと。単なるうわさではなく直接の証拠をつかんでおり、その証拠を使って問題を説明できる専門知識をもっていること。組織内部の人間や機関に相談しても問題解決できない場合に限られる、と哲学先生は書いている。

しかし、どうも、こうしたテキストを読むと、社会の無法に対し、事勿れ主義の哲学先生方の姿勢がひっかかる。そればかりか、だからこんな本を書くような哲学先生には、企業戦士の苦しみなど理解出来やしないと怒りさえ感ずる。

内部告発で先ず最初に浮かぶのは、中高年企業戦士過労死が急激に増加している問題である。哲学先生は、過労死を生み出している職場の現状をどこまで理解しているのか、お尋ねしたい。過労死を無くそうとすれば、どうすれば良いのか、この問いに正しく答えられますか。

哲学先生、貴方はきっと、組織内部の人間や機関に相談しなさいとでもおしゃるのでしょう。しかし、資本と労働の敵対関係なんて、哲学先生が考えるほど生やさしいものではない。失職や、降格、職場締め出しが労働者にとってどんな悲惨な結果になるか、それを知っていながら、内部告発に踏切る労働者の追いつめられた深刻さを、哲学先生は果たしてどこまで理解されていますか。

職場に民主主義を定着させること、先ず全てはここから出発すると思う。民主主義を職場に定着出来た時、労働者の良心も、企業家の良心も生産と安全管理に、職場の人間が守るべき最低倫理がきちんと貫かれるはずだ。

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