定年後の読書ノートより
聖書の思想と歴史(世界の名著、聖書)、前田護郎、中央公論社
満州事変の頃、一高寮生活を送った著者、同クラスで頭の良い友人達は、史的唯物論に共鳴、社会変革を志向したが、氏は、人間の力によって社会の形を改革しえたとしても、イエスの温かさは唯物論の中には見出せず、かつ唯物論には、死を越えた彼方への希望と喜びが与えられないことに強くこだわり唯物論ではなく聖書への傾倒がその後の氏の人生に大きな影響を及ぼしていく。

旧約聖書とはBC1000年〜AC100年の間に、口碑伝承をヘブライ語に文書化したもので、貧しく恵まれない下層階級ヘブライ人にとって、目に見えないひとりの神を求めて、築き上げた倫理構想であり、ヘブライ共同体の精神的基盤でもあった。彼等の生活を律していたのは律法であり、これが旧約聖書の原型でもある。旧約聖書には、歴史17書、諸書5書、預言17書、合計38書が収められている。その内容は、神による万物の創造、神の像として造られた人間がほかの被造物の上に置かれるがアダムが神に背き、人間として路頭に迷う。しかし、神は人間を救おうとしてノアの箱船を用意する。モーゼに導かれたヘブライ人には、契約の精神、律法が与えられる。荒野を旅して、乳と蜜の流れるパレルチナに定住する。十戒こそモーゼの与えた律法である。

新訳聖書は、ギリシャ語でかかれ、27の文書からなる。イエスを立体的に捉えた4人のイエス像が福音書となる。マタイ、マルコ、ヨハネ、ルカの4つの福音書に使徒行伝の5書。書簡21書、預言1書これはヨハネ黙示録。ナザレのイエスが罪あるもののために、十字架につき、墓におさめられるが、復活し、新しい神の国が、イエスによってはじめられる。

旧約、新約聖書とも、その根底にあるのは隣人愛の実践である。

聖書は人間の手によって書かれているが故に、人間としての欠陥も現れている。聖書は全体が総合的に研究される時、真価を発揮する。

かって、ライプニッツはキリスト教と哲学の調和を求めた。若きヘーゲルは聖書の研究に没頭し、三位一体的な考えから正反合の弁証法を導きだした。ダンテ神曲、ミルトン失楽園、トルストイ復活、ドストエフスキー罪と罰、ジード狭き門等は、聖書の精神から読者を動かそうとした。

聖書の内容は、教会が宗教として体制を持つ以前から書かれたものである。聖書の経典化とは、神殿、僧職、教義などの成立とともに宗教が形式化していく時の現象であり、聖書と宗教体制としてのキリスト教会とは混同してはならない。聖書復興の動きは全世界的である。

内村鑑三は、無教会主義を唱えた。この考えは反教会主義ではない。宗教の範疇に属さない信仰生活を求めようとしたのである。その実現は聖書を基本とし、各人が聖書を読み、直接に神から救われんことに重点を置こうとした。

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