定年後の読書ノートより

どうしたら幸福になれるか(1)、W・B・ウルフ著、一光社
岩波新書「どうしたら幸福になれるか」を書き上げたW.Beran.Wolfe氏は1900年オーストリア ウィーン生まれのユダヤ人精神科医。ナチス・ドイツの迫害を怖れ、アメリカに亡命.ニューヨーク組合教会精神衛生相談所長を勤める。趣味豊かな好青年でこの作品は31才の時、毎夜11時から夜中3時までクラシック音楽をかけながら書き上げたそうだ。しかし、残念ながらWBウルフは、この1冊を残しただけで、1935年35歳の若さで没。

著者WBウルフ氏は精神医学をアルフレッド・アドラー博士(1870〜1937)に学ぶ。師アルフレッド・アドラー博士はフロイトと共に近代精神医学創始者の1人。フロイトは社会主義に無関心であったのに対し、アドラー博士は社会主義に強い関心を持っていた。従ってフランクフルト学派を中心として、エーリッヒ・フロム、ヘルベルト・マルクーゼ、ビルヘルム・ライヒ等フロイト左派と呼ばれるユダヤ人の方々と、アルフレッド・アドラー博士及び著者WBウルフがどのような接点を持っていたか大変興味深い。なを、あのゾルゲ事件のリヒアルト・ゾルゲ博士も、このフランクフルト学派に属していたことがあったと知って、ますます興味は広がるばかりである。

WBウルフの「How to be happy though human」 はペンギン叢書として全世界的なベストセラーであり、日本では東京大学教育学科の周郷博先生が1960年翻訳、長く岩波新書のベストセラーとして人々の愛読書であった。ところが、いつの間にか岩波新書のこの本は絶版になり、今では古本屋でも殆ど見つけられなくなった。

小生は独身時代からこの岩波新書「どうしたら幸福になれるか」の大フアンであり、この岩波新書ほど、何度も何度も読み返した本は外にはない。

この本がもう岩波新書では絶版になったこと、また周郷博先生が訳された岩波新書では、「X章の道具について」と、「Z章の誤った目標について」の2章が省略されていることから、自分は。いつかペンギン叢書の原典を手に入れて、12章全文をキチンと英文で読破したいとかねがね望んでいた。

この度、アドラー心理学会の野田俊作先生や、岩井俊憲氏、バベル・インターナショナルの前田啓子氏、仁保真佐子氏等が中心となり、この本をアドラー心理学関係の出版一切を請け負っている一光社から発行した。

本書と岩波新書の違いは、全章もれなく翻訳し、図表も完全に入れ、親切に監訳者注まで入っている。しかし英文翻訳に関する限りは、周郷博先生の名訳にはとてもかなわない。

この度、この岩波新書の「どうしたら幸福になれるか」と一光社「どうすれば幸福になれるか」の最新版を比較再読しながら、WBウルフのこの名著こそが、我が人生、最も思い出深い1冊であり、この際、この書が、如何にすぐれた作品であったか、ゆっくり味わい、わが読書生活充実のひとときにしてみたいと思う。

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