定年後の読書ノートより
歴史としての20世紀を語る@、加藤周一、NHK教育テレビ
この時期のETV特集は、毎年素晴らしい。加藤周一氏の「羊の歌」では、氏の戦時下における東大研究生活に知識人の輝きを見る。氏が医学部の研究者でありながら、戦中も社会科学の僅かな残り火を東大講座の中に求め、本郷にたむろする知識人達の会話も印象深かった。氏は生涯を終えるに際して、20世紀をテレビで語る。

氏は同時代に生きた人の輝きを、1回性の体験として、殊の外大切にする。野村万蔵の狂言「牛追い」の美しさも、同時代の喜びである。同じ意味で、友人を殺した戦争を憎む。戦争には友人を殺すほどの理由は何もなかった。

戦争から学ばねばならないことのひとつに、法律の時限爆弾という正体。もし世論が退いたら、権力は容赦なく時限爆弾、すなわち本来効力を発揮しなかった幾つかの悪法は狂ったように動き出す。大切なのは、油断なき世論の力だ。

民主主義に大切なのは、J・S・ミルが「自由論」で書いているように、少数意見の尊重である。しかるに日本は全会一致こそ民主主義だと思い込んでいる。戦争反対の声を徹底的につぶしてしまった権力は敗戦の決断にどれほど手間取ったか。その被害はどんなに大きかったか。翼賛体制は惰性がついてしまい、すぐに方向転換が出来ないことを思い知るべきだ。

ドイツ統一とEU統一、この前後の時期関係を誤ると、民族問題は複雑化していく。ハウスブルク文化の共通性を大切にしないといけないし、一方目下ここに排他的ナショナリズムが次第に強くなりつつある原因もある。

今時代は米欧の一極化傾向が進行している。日本の外交は米国の支配体制そのものに如何に順応するかという視点のみで外交が検討されている。体制に従うまえに体制そのものを批判しようとはしていない。人権と国連憲章の精神を大切にするとの言葉の裏には、あくまでもアメリカ支配体制に如何に追従していくかという姿勢だけが目につく。ここには真剣な未来を見定めた識見は何も見えない。

このシリーズは4回続く。今夜は第2回が放映される。楽しみだ。

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