定年後の読書ノートより
アリランの歌−ある朝鮮革命家の生涯−、ニム・ウェールズ&キム・サン著、松平いを子訳、岩波文庫、1987年初版発行。
冬の寒い夜、徹夜でこの本を読み上げた。感動の涙で一人泣いた。これは小説ではない。一人の人間が、朝鮮民族の誇りを守り、生き抜いた真実の記録である。

朝鮮現代史に、星の如く輝く一人の無名な革命家、キム・サン氏。勇気ある、抵抗の人。1905年朝鮮西北部に生まれる。トルストイを愛したヒューマニストの少年は、1919.3.1民族の抵抗を一人の神父を通して見る。民族の自覚に生きよう、決意した少年は家族を捨てて革命家としての生涯を歩み出す。東京大学を目指して日本へもやって来たが、やがて中国で医学を学ぶ。少年は民族主義、理想主義、アナーキズムを経て1924年中国共産党に入党。

革命的浪慢主義に燃え、1929年広州蜂起に銃を持って参加。幾度も死に直面しながら強い意志で生き抜く。香港、上海、北京、満州、明日の命も知れぬ地下活動、中国共産党員ではあるが、あくまで朝鮮独立を願う民族主義者でもあることを自覚していく。北京にて官警に逮捕、自白強要、日本警察に引き渡され朝鮮に護送。ものすごい拷問にも耐え、再出所。再び密かに戦線復帰。

しかし上部命令は、コミンテルン直結の一揆主義。党中央に抗議、しかし派閥闘争で混乱する党中央はすでに柔軟性を失い彼に対しても冷たかった。その間多くの女性からも密かな思いを寄せられながら、かたくなに革命に徹しようとする主人公。

中国の革命の中にあって、朝鮮人としての民族意識に燃え上がっていくキム・サン氏、やがて上海の仲間を中心に朝鮮民族解放同盟を組織し、代表として、延安に入る。そこでスノー夫人であるニム・ウェールズに出会い、本書ルポルタージュが出来上がって行く。

しかし衝撃の最後の1ページ。著者も後年になるまで知らなかったが、主人公キム・サン=本名張志楽氏は取材直後、なんと日本間諜、トロッキスト、スパイの汚名をかけられ、延安で銃殺されていた。裁判長は文化大革命当事も「中国のベリア」と恐れられた康生だった。本書「アリランの歌」がアメリカで出版された1941年、すでに主人公キム・サンはこの世には居なかったことは著者ウェールズも知る由がなかった。

過日金達寿の「朝鮮」を読んだ。朝鮮の現代史は抵抗の歴史であり。民族の誇りを守ろうとする闘いの歴史でもある。自分は圧政側国民一人としてこうした歴史を読んでいくのは非常に苦しいが、輝かしい朝鮮抵抗の歴史の前にせめて自分は、日本人が持つ朝鮮・韓国への偏見を拭い去るお手伝いをせねばと思う。遅まきながらハングルを学び、ハングルを通じてもっと現代の生き生きした朝鮮・韓国の姿を日本人に紹介し、少しでも役立ちたい、今はそんな気持ちで一杯だ。

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