定年後の読書ノートより
レーニンとロシア革命、クリストファー・ヒル著、岡稔訳、岩波新書
社会主義ロシアが崩壊して10年、ロシア国民の中には、今も民主主義を踏みにじった社会主義ロシアの悪夢を憎悪する人達が多い。しかし、ロシア革命を押し進めたレーニンは自分達ボルシェビキの未来にこそ真の民主主義は確立出来ると信じて蜂起した。

本書は1947年英国の進歩的歴史学者ヒルによって書かれたものであるが、著者のロシア革命に対する真情を読み取ることが出来る言葉があちこちにある。

「ソビエット制度の成果と欠陥を判断する場合には、理想的な社会主義国家というような抽象的・絶対的な規準によって、判断してはならない。そうではなくて、まったく例外的なほど困難な条件のもとで、絶望的なほど不十分な物的・人的資源をもって、文明社会の他のほとんどすべての政府の公然たる敵意にさらされながら、おもいがけなくおこなわねばならなくなった実験の一部として評価しなければならない。(本書168ページ)

この基盤の上に、レーニンの後継者たちは20年そこそこのうちに一大強国をつくりあげたのである。荒廃した国土の再建という点だけをとっても、ソビエット政府の事業は驚異的なものであったが、問題はそれだけにとどまらない。それは巨大な規模の試行錯誤の時期であり、かって試されたことがない社会組織の実験の時期でもあった。先例もなければ、青写真もなかった。(本書167ページ)

上記の短い文章の中にも著者ヒル氏のレーニンとロシア革命に対する肯定的な、温かい視点が読み取れる。しかし、スターリンはその後数多くの許るされざる独裁を行い、民主主義を破壊していった歴然たる歴史の事実に接し、我々はスターリンを否定してもやもう得ないが、しかしレーニンとロシア革命はあくまで肯定的に理解せよと言われても、それはおいそれとは容易なことではない。スターリンはレーニンの土壌から出発しているし、幾つかの古い書物には、スターリンこそレーニンの教えを実践していった第1人者と書いてある。もしそうだとすればスターリンの独裁、民主主義の蹂躙の根源はレーニンにあるのではないかと考えてしまう。おくれた国ロシアで民主主義確立こそ最優先であると主張したカウッキーの声を日和見主義とこっぴどく否定したレーニン、最初の国民選挙でボルシェビキが第1党にならなかったからといって、投票結果を強引に踏みにじったレーニン、こうした足取りのどこかにスターリン誕生につながる土壌があるのではないか。

歴史の環境と、その理念を小さな小冊子で読み取っただけで、どこまで我々は歴史の真実に迫れるのか。ロシア革命に学ぶ姿勢は、スターリン憎しが、そのままレーニンの過ちをまさぐるような視線でこの本を手にする自分は矢張り間違っているのであろうか。単なる老知識人のおしゃべり徘徊なのだろうか。

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