定年後の読書ノートより
続・死に方のコツ、日本医大高柳和江著、飛鳥新社、
正編はこのパソコン読書ノートを始める数年前に読み強い印象が残っている。私の死に関する観念を大きく変えて頂いたご恩がある。続編は正編を補う視点から書かれている。著者は神戸大医学部卒

あの神戸大震災の直前に発行された正編。直後の修羅場。多くの親族を震災で亡くされた方々の手紙は死を迎えることは本当に静かな旅立ちと共感が寄せられている。

「死は人格が完成したときに訪れる」。著者の信念。「先生、ありがとう」と言って息をひきとる患者さん。今まさに死のうとしている人は不思議な力を持つ。

人の死はとても静かなものだ。死とは、体のすべて機能が限りなくゼロに近くなった時点で訪れる。だから、ほとんどの人は眠るように穏やかに亡くなる。いつ亡くなったか判らないぐらいだ。死ぬ瞬間には、「えもいわれぬ心地よさ」につつまれる。それは脳でつくられる麻薬類似物質のエンドルフィンやエンケファリンの働きによる。モルヒネを上手に使うと、不安が消え、穏やかな陶酔や幸福感を感じるが、それと似た作用をする物質を、人間は自分の体内でつくりだすのである。そして、それを死ぬぎりぎりの瞬間に放出する。

ところで、エンドルフィンは脳からでるものと思われていたが、最新の研究によれば、体の細胞のいたるところで分泌されていることがわかってきた。実をいえば、年配の医師の中には「エンドルフィンがあるから死ぬのは怖くない」と考えている人が多い。ある医師は「そう考えると、いかに死ぬかなどと悩む必要もない。生きることだけに専念できて人生が楽しい」と語っていた。

「眠りに落ちると同じようにストンと意識が落ちて、安らかに亡くなった」というケースが多い。私はガンの患者さんにときどき「笑い」を処方する。笑うとストレスが消え、副腎皮質などの働きもよくなる。笑いの素晴らしい点は、面白いから笑うのではなくて、たんに笑顔をつくるだけでも身体の免疫機能が高まることである。

ネアンデルタール人は声帯の構造から推測すると、言葉を話せなかったらしい。およそ5万年前に出現した現人類だけが言語を持ち、文化をここまで発展させることができたわけだ。せっかく神様にプレゼントしてもらった「話す」という能力。死ぬときこそ、おおいに使わないともったいない。

じっと話を聞いてもらうだけで、あるいはそばにいてもらうだけでも、気持ちが温かく包み込まれ、「ああ、心が癒された」と感じさせてくれる素晴らしい人もいる

「尊厳ある死」というと、とかく観念的に考えがちなのだが、最後まできちんとひげを剃る、髪をきれいにしているというように、要するに惨めにならないことだ。

人間はなぜ死ぬか。この問いにたいする答えはひとつ「細胞には死がプログラムされているから」。我々は死ぬからこそ人間なのだ。自分が死ぬ事で新しい文化が育つ。だからこそ、与えられた一生のうちに自分なりの考え方やものの見方を精一杯磨きあげ、次の世代にきっちりバトンタッチしていくことが大切。

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