定年後の読書ノートより
帝国主義と世界の一体化、木谷勤著、山川出版世界史リブレット
定年後の学習テーマのひとつとして現代世界史を勉強している。岩波書店の世界歴史講座を教科書に、目下第一次世界大戦前後を整理している。ここで岩波講座を離れて、更に多くの本でもっと徹底的に調べたいのが、帝国主義とは何かということ。山川出版の世界史リブレットはいささか教科書的ではあるが、帝国主義を概論的に把握するには最適な1冊。

帝国主義論として著名なホブソンは、対外膨張の原動力は資本輸出にあるとした。レーニンはこれを更に深め、生産と資本の集中・独占の成立、金融資本の成立、資本輸出の増大、世界市場の分割、帝国主義列強による植民地分割の完了として帝国主義をグローバルな目で世界シスステムとしてとらえた。シュムペータは帝国主義の主流は、軍国主義であるとし、ロストウ等近代化論は帝国主義とは伝統社会からの離陸を経て成熟した高度消費社会への歴史的ステップであると説き、公式マルクス主義は資本主義の最高段階の帝国主義という人類発展段階論でまとめ、フランク等の従属理論では、帝国主義列強が中心に発展を続け、遅れた周辺諸国がモノカルチャーに停滞するという見方等各種の帝国主義論がある。しかしこれら理論は過去を説明する為の思弁的道具であり、その時代に生きた人間や社会の姿を具体的に描く事を目指していない。この本では、出来る限り民族、人種の視点で帝国主義をまとめようとしている。

第1次世界大戦で、大きな影響を与えたのは、インド・アフリカから列強の為に派遣された兵士・労働者がヨーロッパ白人と同じように戦場で闘い、従来の白人優越の意識を大きく変化させていったことが、新たに世界史レベルでの政治の方向を替えていったとこの本の著者は強調する。

インド人クーリは1600万人出国し、400万人が現地に流出した。ガンジーが南アフリカで反帝国主義と民族運動に目覚めていったのは、現地で「西欧の没落」を見たことにある。猪仔貿易として中国人36万人が移住した米国では、黒人との対立が搾取するプランターの社会的矛盾を隠すことになった。生存競争、社会陶汰、適者生存を説くスペンサー等の社会ダーウィンニズムは、対象を個人ではなく、階級、民族、人種、国家のような集団として、歴史を把握することを教えた。18世紀までの反ユダヤ主義は宗教問題に限られていたが、帝国主義時代の社会不安、ショービズムによって国民の不安は増幅された。フランスドレヘス事件では民主主義が歯止めになったが、ドイツでは「遅れてきた国民」としてナショナリズムが病的に亢進され、カイザーの黄禍論、チェンバレンのゲルマン優越論は人種差別意識を拡大し、あのようなユダヤ人排斥運動に結びついていった。「堕落した文明」に対する「創造的文化」の優越はドイツファッシズムへのイデオロギーであった。

この教科書的な1冊は、帝国主義をナショナリズムや人種差別によって広がった民族間の対立、人の心の亀裂の深さに注目し、理論体系としては従属理論を根底にする帝国主義論であるが、理解し易い歴史書でもある。


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