定年後の読書ノートより
ベンガルのイスラム文化、原忠彦、弘文堂
不安定な自然環境と過剰な人口をかかえるデルタ農民の力強い文化を文化人類学の立場より解析した故原忠彦教授のファイールドワークノート。バングラデシュ、チッタゴン県、ゴヒラ村での調査。

聖者によるイスラム教受容は、ヒンドゥー教と混交し、ムガル朝下で、下層階級の人々に積極的に広がった。ワッハーブ運動。ヒンドゥー教徒地主に対するムスリム農民運動。バングラ東部で盛ん。

イスラム教徒の価値観とは大きく次の3項目に集約出来る。

  1. 独自の運命、能力を持っている自主独立の個人の尊重。
  2. 世界の事象の動きの不確定性の容認。
  3. 人間の持っている欲望と感情の強さの容認。

礼拝1日5回。集団礼拝金曜日昼。礼拝は神の尊崇、絶対的帰依を表す行為。現世利益祈願はマジェル(聖朝)においてビール(聖者)の祈願を通してなされる。飲酒、賭博は厳禁。

アッラーの神、人間の論理、理解を超えた存在。可知の領域には人間の論理が許されるが、不可知の領域では神の意志のみが働く。(例、人間の誕生、死後の他界観。事象の予見)

葬式は信者の死を神に告知する式。墓参の習慣なし。人間の一生は独自の一回性、従って祖先や家に対しての責任は無い。子供の自主性=わがまま放任。喧嘩不干渉。

欲望は神に与えられたもの。パルダー=ベールを被る女性達。男女成人の性欲望積極的肯定、但し社会的規範としてバルダー。女性は男性の前から身を隠す。しかし性欲望は肯定。早婚。女性の就学率、文盲率高い。

家庭内男女財産区別厳格。平等な個人。相互扶助は発達し難い。親族内対立多い。両親扶養の義務曖昧。老妻未亡人は特に哀れ。財産相続。妻1/8。子供、男:女=2:1で平等。土地の細分化。

土地の細分化=農業経営の基盤不定=自作農化阻害。余剰人口増加、高い失業率、都市への人口流入、海外出稼ぎ。

1950年以降死亡率低下、老人扶養の深刻化、産児制限は不可知の神の領域に対する人間の侵害=イスラム全信仰体系への挑戦。

この文化には、〜しなければならないという規範はない。個人の自由。多様な選択。社会全体を規定する枠組みはない。

原教授1989年1月ダカで客死。日本バングラデシュ研究の第1人者。終始農村フィールド調査の必要性を強調された。

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