定年後の読書ノートより
大英帝国インド総督列伝−イギリスはいかにインドを統治したかー浜渦哲雄著、中央公論新社
大英帝国はインド植民地をどのように支配してきたか。支配する側からの歴史としてとらえた視点がこの本の特徴。東インド会社から英国直接統治、そしてインド独立までの約200年間、全33人の総督の実績を記録。日本の本としては統治者側の視点はユニーク。

最初に関心を持つのは、権力を握った超エリート達の人生は、本当に幸せだったか。高い社会的威信、名誉、高額な報酬、しかし当時インドは「総督の墓場」と評されたいた。健康の維持は総督にとって簡単ではなかった。多くの総督は高温多湿な気候と心労で過労死、風土病死、精神疲労による自殺、または暴漢による殺害、そして客死。「インドの土となるか、ウェストミンスター寺院に眠るか」と英雄心を煽られてインドまで出かけたが、33人中ウェストミンスターに埋葬されたのはたった4人だけだった。

タゴールを生み出したウェルズリー総督のカレッジは、植民地での教育に批判的な英国から認められず、結局は語学学校に格下げされてしまった。だが、英国支配は或る面では巧妙だった。藩王国をつぶせば不満分子が増えて危険である。支配者を交替させて、実質英国が行政統治権を握る。ウェルズリー、エレンボレ、カーゾン、ダルフージ総督等は権力を握って幾つかの経済、社会インフラ建設にポジティブな側面を発揮している。しかし、それは英国はインドより優れている、英国文化拡大、インド文化の蔑視、否定を前提にした、ネガティブな側面も同時に持っている。

残虐無比な植民地支配の生々しい記述はこの本では記録されていないが、武器を持ったインド反乱は数多くあり、その都度、総督は英国の利益を守って、藩王国を追いつめ、英国に寄与してきた。ベンガルでの500万人の悲惨な餓死は日本のビルマ占領とも関連していると知って心痛む。

総督の中で一番興味を持ったのは、最後の総督、マウントバッテンである。彼はインドの統一を保持せよとの本国命令を受けながら、ガンジー、ネール、ジンナー等と話し合う過程で、民族運動の現実を認め分割独立を進めていく。その間、ネールを信じ、ネールの信用と権威を高める役目をマウントバッテンは果たしている。アメリカのベトナム、フランスのアルジェリア弾圧支配に比し、英国の平和的な植民地撤退は、マウントバッテンの実績が大きいと思うし、英国の将来を見詰めた巧妙な現実対応の政治力は長い植民地支配でかちとったものなのだろうか。重みを実感する。

この本は、列伝と題するごとく、多分に現象的記述に終始しているが、総督一人一人が如何に植民地経営を成し遂げ、それを英国本国はどう評価していたかを知るには興味深い。最後に歴史は人民に奉仕してくれた人だけを記憶していくという事実を再度自分に言い聞かせ、今も権力を握って自分を見失っている多くの人達のイキザマに歴史の教訓をここに見る思いである。

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