定年後の読書ノートより

ナポレオン1812年、ナイジェル・ニコルソン著、白須秀子訳、中公文庫
トルストイ「戦争と平和」の感動を余韻として、一息に読み終えた。

英国産業革命が始ったのは1730年、機械制工業生産により大量の綿紡績製品は急速に大陸の市場を求めて、ヨーロッパ諸国へ流れ込んだ。このままでは冨は英国に集中していく。急速に資本主義生産の基礎を固めようとするフランスはイギリス船の入港を政治力で阻止しようとしてこれに対抗した。

しかしフランスと英国の間を動揺するロシア皇帝はイギリスと同盟を結びフランスの英国封じ込め政策に反抗した。怒ったナポレオンは、1812年6月22日ロシアに向けて侵略を開始した。そして、129年後の同じ6月22日ヒットラーナチスもロシアに向けて電撃作戦を開始した。著者ナイジェルはナポレオンのロシア侵略と129年後のナチスドイツのロシア侵略の意外な相似点を歴史の皮肉として興味深く対比しながら、ナポレオンの敗退を歴史資料に基づいて追跡していく。1941年12月6日モスクワに迫ったナチスドイツは突然ソ連赤軍の大反撃に直面する。その日はなんと日本軍部が無謀な大東亜戦争突入の日でもあった。

焼け野原のモスクワで補給路を脅かされるナポレオン、状況はナチスドイツと同状況だった。侵略軍の祖国追い出しを号令するクツーゾフ将軍、そしてナチス追撃を開始したジューコフ将軍。追われる身のナポレオン、そしてナチスドイツ。襲いかかる冬将軍の容赦ない寒波。幾つかの悲劇、残酷な断末魔。

ひとり逃げ延びたナポレオンに待っていた屈辱と、ベルリンで自殺に追い込まれたヒットラー、歴史は余りにも酷似している。

この本は、トルストイ「戦争と平和」を読むかたわらで、ある日古本屋の書棚に発見。トルストイを読み終ったら是非読んでみたいものだと思っていた。読後印象として、あらためて文豪トルストイの戦争描写力の方がはるかに迫力も、人間描写力も優れ、例え現代作家が膨大な歴史資料に目を通し、確立した歴史観に基いて書き直したナポレオン侵略史よりも、トルストイ「戦争と平和」の方がはるかに読みごたえがあることをあらためて実感した。

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