定年後の読書ノートより
近代日本思想案内、鹿野政直著、岩波文庫
この本は、日本の近代化系譜を読者に知らしめ、図書選択(ここでは岩波文庫)の一助にしようとしている。目次から見れば、思想と向き合う、幕末という時代、啓蒙思想、自由と平等、欧化と国粋、信仰の改革、国体論、生存権・人権、民本主義と教養主義、民俗思想、科学思想、社会主義、フェミニズム、反戦論・平和論、日記・自伝・随想・書簡、むすびとして戦中から戦後へとなっている。

この本で面白かったのは、民俗思想を総括的に紹介している章であり、フォークロアの誕生(英国W・J・トムスのFolk−Lore)、柳田国男と民俗学(日本の近代化への批判的視点)、南方熊楠と禁忌への挑戦(隠花植物や羊歯類採取と研究)、「東国の学風」(アカデミズムへの批判)、伊波普猷と沖縄学(近代化に伴う先進と後進の格差の意識)、アイヌ文化を謳いあげた人々(金田一京助や柳田国男のアイヌ神謡集)、柳宗悦と民芸(朝鮮の美への開眼)、今和次郎の民家探求(岩波文庫・日本の民家)の章は民俗思想とは何かを知る上で随分と参考になった。

但し、この本の社会主義の章にて、社会主義巨大幻想論を見て、がっかりした。著者鹿野はどのような考えの人か知らないが、次の一文は1991年直後に書いたとしても余りにも軽薄ではないか。

近代日本の思想で社会主義は、かなり大きな比重をもっています。マルクス主義に限らずひろく社会主義が、近代日本の社会に強い衝撃力を持ったのはそれなりの理由があります。ことに1917年のロシア革命は、資本主義社会のつぎの段階の社会がこの地球上に実現したとの想いへ、人々を鼓舞しました。ソビエット連邦の崩壊を頂点とする一連の世界史的激変によって、社会主義は20世紀の巨大な幻想だったとの認識が、日本社会にもほぼ定着しています。にもかかわらず、主として20世紀前半に展開された社会主義は、新しい原理と角度をもたらしたという点で、近代日本思想の資産目録に欠かせない内実を備えています。」と鹿野は書いている。

社会主義は巨大な幻想であると言い出したのは、ブレジンスキーの「大いなる失敗」だった。この書によって多くの知識人は衝撃を受けたことは事実である。しかし社会主義は20世紀の巨大な幻想だったとの認識が日本社会にもほぼ定着したとは、あまりにも言い過ぎである。岩波のこうした概括書にブレジンスキーと同じ論法がそのまま使われるとはいささか衝撃である。

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