定年後の読書ノートより
虞美人草、夏目漱石著、漱石全集・岩波書店
夏目漱石の小説は、いつも東大出エリートの世界。極まる所、我々とは生活基盤が違うぞと言いたくなるが、所詮世の中、金持ちと貧乏人からなる階級世界。行き着く人生道場同じ。

学者小野は名誉も欲しいが、財産も欲しい。お世話になった孤堂先生の娘小枝子を嫁にするより、金持ち令娘藤尾と一緒になった方が将来が恵まれると考える。美人藤尾こそ時代の先端を行く娘。美人藤尾は許婚宗近より小野の方が、将来御し易しと母と共に婿にしようと目論む。

兄甲野は、そんな心汚い母妹より友人宗近兄妹の方に人間として親しみを感じている。人間にとって大切なのは道義に生きることだ、甲野は哲学者。エゴイズムを嫌い、まじめに生き抜きたいと考える甲野は妹藤尾の変心を嫌悪する。甲野と宗近は一緒に京都に遊び、余裕有る人生を楽しむ。可憐な孤堂先生父娘に偶然出会うが、この父娘が小野の恩人と次第に気づいていく。

小野は小枝子と藤尾の間を迷いながら、矢張り金持娘藤尾と将来を契ろうと決意し、友人浅井を通じ、孤堂先生に破談を申込む。一方宗近は目出度く外交官試験に合格、久しぶりに父親と生活の将来を相談する。

宗近はここで始めて藤尾の変心を知り、母娘の算段を知り、甲野の立場を直観した。宗近は急いで甲野に会い、妹を貰ってくれと頼みこみ、同時に藤尾母娘の打算に立ち向うことを決意する。ふらふらしている小野に、宗近はまじめになれと一喝する。小野は始めて自分の動揺をざんげする。

吾にかえった小野は、藤尾の前で恩師の娘小枝子と結婚すると宣言、宗近も藤尾に彼女の金時計をたたきつけ、藤尾に自己を明確に知らしめる。絶望した藤尾は美女クレオパトラの如く、自ら毒を飲んで全員の目前で自殺する。

最後に甲野の日記。「人生は、生と死を意味する悲劇が真底にあり、その上に第1義の道義、すなわち、まじめに生きるという大切なものがある。しかし人間生きて行くうちに、第1義の道義を外れ、エゴイズムが横行し、幾つかの喜劇の中でやがて暗転し悲劇となる。道義を忘れ、道義を外れれば悲劇になる。大切なことはきちんと真面目に生きていくことを自覚することだ」。この哲学は、この小説のテーマでもある。

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