定年後の読書ノートより

マディソン郡の橋、ロバート・ジェームズ・ウォラー著、文芸春秋
全米ベストセラーの不倫小説。作者は新人作家。いわゆるボルノ小説なる品のない性描写を嫌悪する読者層にも、このセクシーな調べは、快い刺激である。ストーリーは次のごとし。

「私は見知らぬ読者から、母の秘密を聞いてくれと1通の手紙を受け取った。」とはじまる。いわゆるシュトルムが得意とする感傷的ストーリーに用いる回想的筋追い物語。

オハイオ州は、保守的な田舎。1人の写真家が、屋根のある橋の写真を撮りにきて、道を尋ねた。当日私の夫、子供達は牛を市場に売りに出す為、2・3日留守だった。男は優しく、逞しく、最後のカーボーイだった。写真撮影を手伝いながら、私は男のセクシーな後ろ姿にすっかり心奪われた。

夕食に誘った。私はウキウキと化粧をし、忘れていた女を取り戻した。勿論、香水もふりかけた。彼との夕食は素晴らしかった。2人でダンスを踊った。彼は私を強く抱きしめてくれた。二人は熱いくちびるを重ねた。私は彼を2階寝室へと誘った。暑かった。

彼は私のなかに落ちていき、私は彼のなかに落ちていった。彼は私のすぐ上に身体を支え、自分の胸を私の腹や乳房につけてゆっくり動かした。なにか動物の求愛の動作でもあるかのように、彼は何度も何度もそれを繰り返した。

そして私の身体の上を移動しながら、私の唇に、耳にキスし、私の首筋に舌を這わせ、草原の深い草むらで素敵な豹がするように、彼は私を舐めたくれた。彼は動物だった。優雅で、強靭な、雄の動物、まさに私がそうして欲しいと思っていたやり方で。

3日間、家族が留守の居間で、寝室で、近くの草原で、2人は求め合い、私は彼の強靭な精力に満ち足り、彼もこの日の為に人生があったとつぶやいた。2人はこの瞬間に光輝いていた。しかし、すべてはここまでだった。男は一緒に来て欲しいと願ったが、私は家に留まった。

彼は去った。家族は戻ってきた。すべてはまた元通りになった。町のうわさになることもなく、夫に気付かれることもなく、やがて25年が過ぎた。夫が亡くなった後、彼の消息を求めたが判らなかった。しかし彼は孤独な生涯を人知れず終えていた。彼の心には永遠に母の面影があった。そして母も死んだ。

ストーリはここで終る。読者には快い昂奮と、感動が残る。保守的な周囲に何ひとつ波風を立てることもなく、母は一人あの夜の悦びを思い出し、満ち足りていた。読者は密かに思う。自分もいつの日か、こんな秘密が持てたらなんて素晴らしいだろうと。

男の素晴らしい野生味、孤独な知性美、強靭な腕の中で味わった快楽の3日間、2人の秘密は最後まで守られた。秘密を守ること、これこそが2人の愛の深さでもあった。

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