定年後の読書ノートより
日本の下層社会、横山 源之助 著、岩波文庫
日本資本主義が一人だちする明治30年前後、横山源之助(1870〜1915)は労働者・貧民に深い同情をよせ、実態調査にもとずづくルポルタージュの数々を世に問うた。そこには工場労働者をはじめ職人・都市の極貧者・小作人等の生活がなまなましく詳細に記録されている。

横山源之助は明治33年(1900年)、農商務省がおこなった工場調査に嘱託として起用されている。その調査報告が、明治36年(1903年)同省の手で編まれた有名な「職工事情」である。横山源之助は明治における2つの労働報告の古典、「日本の下層社会」と「職工事情」の創出にかかわっている。

「職工事情」が官製と思えぬほどの、中立的な、きわめて客観的な、くわえてはなはだ柔軟な、ドキュメントに仕立て上げられていることは識者が認めるところである。「職工事情」をそのような官の枠を疑わせるほどのものにした、横山源之助らの陰の努力をみのがすことはできない。

このときの膨大な工場調査「職工事情」がもととなって、我が国はじめての工場法(明治44年)がともあれ日の目をみている。それまでは法の保護はまったくなかったのである。

なを岩波では、「職工事情」「日本の下層社会」のさらなる社会科学・歴史科学の探求として、野呂榮太郎「日本資本主義発達史」・山田盛太郎「日本資本主義分析」・平野義太郎「日本資本主義の機構」を刊行している。

さらに紡績業については、高村直助「日本紡績史序説」上下(塙書房)・森貴一「日本労働者階級状態史」(三一書房)・戸塚秀夫「イギリス工場法成立史論」(未来社)・春日豊「工場の出現」(岩波日本通史17巻)が参考となる。

自分にとって印象深かったのは、繊維関係ルポより、むしろ東京下町の屑広い、土方、車夫、日稼人足等の貧困生活の実態、よくぞここまで現地現物主義を貫徹して調べつくしたと敬服する。しかし、残念ながら桐生・足利の繊維女子労働者の生活実態に関しては、「職工事情」にあったあの迫力はこの本にはなかった。

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