定年後の読書ノートより
鉄道員(ぽっぽや)、ラブ・レター、浅田次郎著、大活字文庫
鉄道員(ぽっぽや)(1995年小説すばる)

北海道幌舞駅、かっては炭坑でにぎあったこの駅も、廃線。この駅を一人で守ってきた乙松にも定年が来た。乙松には生後まもなくして死んだ娘と、苦労ばかりをかけた妻の思い出だけが生きる総てだった。雪の深い日、見知らぬ娘が駅を訪ねて来てくれた。娘は鉄道を愛し、鉄道の話を乙松と楽しんだ。翌日雪のホームに勤め姿のままの乙松の死があった。駅を訪ねた娘は、雪女だったのだろうか。

ラブ・レター(1996年オール読物)

ムショから出てきた吾郎に待っていたのは、“戸籍上の見知らぬ妻の死”だった。葬儀に向かう彼に、中国人白蘭の手紙。「結婚ありがとうございました。謝謝」。闇の世界でむしりとられていった白蘭の短い命。しかし、一度も見たこともない俺を信じて、愛を尽くしてくれた白蘭。警察、病院、火葬場。吾郎は美しい中国娘にすがって泣いた。娘は死の直前にも、男に手紙を遺していた。「吾郎さんにあげられるもの、何もなくてごめんなさい。心から愛してます世界中の誰よりも」。白蘭の骨壷を持って故郷へ帰ろう。吾郎はそう決心した。

「鉄道員」と「ラブレター」、ふたつとも素晴らしい、心を打つ作品だ。作者浅田次郎氏について、自分は何も知らない。しかし氏が、杉並高校卒、様々な職業を経て、吉川英治新人賞、直木賞受賞という経歴を見ただけで、頭ではなく、身体で書いている作家だと判る。陽の当たらない過疎の駅に生涯をかけて死んだポッポヤ。泥だらけの世界に密かに消えた天使を描いたラブ・レター。きっと作者は信ずる神を持つのだろう。信ずる神を持つ人間だけが、こうした世界を素直に描くことが出来る。美しい世界をどうも有難う。

ここをクリックすれば、読書ノートの目録に戻れます。