定年後の読書ノートより
戦争と平和(第2巻第3編)、トルストイ著、中村白葉訳、河出書房新社
トルストイは、人間の行動と精神を毅然たる姿勢で把握していく。トルストイはすごい。これがトルストイを頂点とするロシア文学の魅力かと思う。

ナポレオンとアレクサンドル皇帝の接近による、ロシア貴族のフランス文化への憧れは、上流社会に幾つかのうわさの種をまいた。この時代をトルストイはこう描いている。

しかしその間も生活は、健康や、病気や、労働や、休息などの人間本来の関心や、思想だの、哲学だの、詩だの、音楽だの、愛だの、友情だの、憎悪だの、人それぞれの関心をふくめた、人々の現実の生活は、いつもと変ることなく、ナポレオン・ボナパルトとの政治的接近とか敵意とか、あらゆる内面的改革などはかかわりなく、そうしたものの外でいとなまれていた。

この描写、実に人間生活を深く見通していると実感する。

フリーメーソンのピエールの演説の中に、トルストイの暴力革命否定の論理が展開されている。曰く。

私達の崇高な意図の実行にきわめて大きな障害となっているのが、現在の政治制度であります。このような事態の下で、私達はどうしたらよいのか?

革命を援助し、すべてを覆し、力をもって力を撲滅すべきでしょうか?…・いいえ、そのような方法は、私達の断じて認めるものではありません。いっさいの暴力革命は否定されなければなりません。なぜなら、人々が現在のままにとどまるかぎり、革命はすこしも悪を矯正しないし、叡智は暴力を必要しないからであります。

トルストイは、筆をとるまえに真剣に考え、悩み、最終的に自らの思想として、小説の舞台を借りながら人間というものを描きだしていく。「戦争と平和」は膨大な長編小説だが、きっと最後まで読み切れると思う。

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