定年後の読書ノートより
戦争と平和(第2巻第4部)トルストイ著、中村白葉訳、トルストイ全集
働かないことー無為の状態で、人間は心安らかにはおられない。何故ならば、心の奥底から、何もせずにいることの責めは負わねばならぬぞとひそかな声がささやくからだ。しかし軍人は非難されることのない無為を享受することが出来る、とトルストイ流の生活論がちらりと書かれた軍隊生活。ニコライ・ロストフ伯爵は、父親のねがいで一時軍隊を離れ、重要な貴族業務である所有土地管理の為、郷土に戻る。領地での狩猟遊戯のいきいきした描写、没落貴族再興の願いをかけたニコライ青年結婚に寄せる両親の期待、世間に無知な父親の領地をかすめとろうとする書記ミーテンカへのニコライの怒りの爆発、ひとつひとつの現実的な描写は、貴族世界の一員であるトルストイなればこその筆を通して作品の現実観を高めている。

ニコライはつぶやく。「俺は財産のため愛と真を犠牲にしなければならないのか。ソーニャが貧しいため俺は彼女を愛してはいけないのか」。クリスマス仮装会の夜、ニコライはソーニャの素直さに感動して、2人は唇を合わせる。ニコライは決意する。ソーニャと結婚しよう。しかし両親は貧しいソーニャとの結婚を許さない。一方ニコライの結婚決意は固い。母は息子ニコライに告げる。おまえはもう成年者、それならもうかまうまい。しかしあんな腹黒い女を自分の娘とは絶対に認めないと。腹黒い女という言葉にかっとなって、ニコライは、声を荒げて、あなたがぼくに自分の心を売れと言おうとは、まったく思いもよらなかった。もしそういうことなら、最後に一言だけ言っておくが…と母に迫った。しかし息子の顔色から、母がぎくりと観念し、そしておそらく永久に母子のあいだに残酷な記憶としてのこったにちがいない、その決定的な一言を、彼は言う事が出来なかった。

結婚に反対する両親と息子の対立、ここの描写にも不要な言葉はひとつも遊んでいない。

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