定年後の読書ノートより
戦争と平和(第2巻第5部)トルストイ著、中村白葉訳、トルストイ全集
ナターシャはアンドレイ公爵と婚約、1年後の結婚を約束した。しかしあまりにも美しいナターシャに、男たちの目が光る。ペテルブルクの貴族夫人のみならず、ジプシー女を遊びわたるアナトリー・クラーギンは札付きのワルだった。ピエールの妻エレンの誘導でアナトリーは巧妙にナターシャに近づき、熱い視線で彼女をしばりつけ、熱っぽい手で彼女の身体を刺激する。純真なナターシャは、いけない、いけないと自制しつつ、男の巧妙な誘惑術に次第に包まれていく。男は札付きの不良だ。純真な生娘を自分のものにするのは、決して難しいことではなかった。

ナターシャの唇を奪ったアナトリーは、もう彼女の胸に火をつける事はなんでもない。とうとう彼女を略奪する計画に入った。実行の寸前、ソーフィはナターシャを救い、彼女は男の牙をきわどいところで免れ、伯母マーリア・ドミートリエブナの厳しい叱責を受ける。

ナターシャは絶望し、砒素を飲んで自殺を図ろうとするが、周囲の愛情でかろうじて助かる。ピエールは、不貞な妻、エレンの兄であるアナトリーに怒り、妻と同じ、金を与えれば言う事を聞くそのいやらしさに歯ぎしりしながら、彼を追放し、ナターシャを護る。

なにもかも絶望したナターシャを、暖かく受け止めて、笑顔を贈ったのはピエールだった。そしてピエール自身にも、ナターシャへの愛が本物であることを幸せに思う。

以上が簡単なストーリ。このストーリの中に、金銭欲に結婚を計算する貴族青年達のうごめきや、着飾った虚栄の裏には、所有欲だけが貫いている貴族社会の裏の世界、無数の男や女の赤裸々な姿、その中にあって、真実信頼出来る誠実な貴族青年ピエール、豊かな人間性の確かさが次第にはっきりと描きだされてくる。

いかに生きべきか、19世紀のロシア貴族社会の中にあって、人間の執拗な姿を求めてトルストイの作品は次第に焦点がはっきり絞られてくる。

ここをクリックすれば、読書ノートの目録に戻れます。