定年後の読書ノートより
戦争と平和(第3巻第2部)トルストイ著、中村白葉訳、トルストイ全集
小説「戦争と平和」は、すごい作品だとは今まで何度も聞いてきた。しかし今日こそ、この作品を読んで、小説「戦争と平和」とはこんなにも素晴らしい作品なのかと、感動を新たにした。人生いろいろな物の見方がある、しかし天才と言われる作家の目には、これほどまでに人生を鋭く深く見抜くことが出来るのかと驚く。もしこの作品を知らずに人生を終っていたら、自分は結果として人生を知らず来てしまったと、臨終に臨んで大いに後悔したのかも知れない。とにかく我を忘れて読んだ。

ナポレオンはロシア奥深く侵入した。それは破滅への泥沼だった。ロシア民衆の憎悪は燃え、ロシアの冬は容赦なくナポレオンを苦しめた。戦争は幾万の偶然が重なって生まれるが、侮辱や欲望、無数の人々の習慣や性質の関与と人はいうかも知れないが、すべては意志を奪われた歴史の道具である。人間社会では、階級が高くなればなるほど、ますます自由は少なくなる。我々の前に遺されているのは、歴史的結果だけである。

ロシア軍の間に流れるドイツ人指揮官バルクライと、ロシア将軍バグラチオンの対立による指揮の乱れ、老人将軍ニコライ公爵のかたくなな固執、フランス軍接近に益々悪化する老人性癇癪そして死の前に示したマリアへの優しさ、農奴連の反抗と毅然として彼等に筋を通すマリアの頑丈さ、突然現れたニコライ公爵の男らしさと彼に愛をよせる令嬢マリア、クトーゾウ将軍の年老いた疲労とアンドレイ公爵の若々しさ、そしてロシアの運命を決したボロジノの会戦、戦場をうろつく哲学者ピエールと部下に慕われる将軍アンドレイ公爵、戦場で出会った憎きドーロホフとアナトリー、そしてボロジノの激しい戦をながめるナポレオンとアンドレイの被爆、敵を許すアンドレイの死の前の心の安らぎ。

ひとつひとつのストーリーは今も我々の心深く日常生活で実感する体験の数々であり、日頃の思索テーマそのものであり、そのひとつひとつにトルストイの光る目を実感し胸を打たれる。この小説はすごいとつくづくと敬服する。戦争と平和は確かに世界の文学に輝く最高傑作である。

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