定年後に読む読書ノートより
戦争と平和(第4巻第3部)、トルストイ著、工藤精一郎訳、新潮文庫
民族の目的はただ一つ、自国を侵略から解放するということであった。この目的は、第1に、ひとりでに達成された。フランス軍が逃げたためで、だからこの逃走をとどめさせないようにさえすればよかったのである。第2に、フランス軍を蚕食した民衆戦の活動によって。第3に、ロシアの大軍が、フランス軍の逃走が止まった場合だけに力を用いる構えを見せながら、追撃していったことによって、この目的は達成されたのである。

ロシア軍は、走る動物を追い立てる鞭のように、行動しなければならなかった。そして老練な牧夫は、もっともよいのは鞭を振りあげたままで、動物を威嚇することで、走る動物の脳天に振り下ろすことではないことを、よく心得ていたのである。

最後に、偉大な皇帝が勇敢な軍を見捨てて逃走したことが、歴史家たちによって何か偉大な天才的なことであるかのように語られている。人間の言葉では最低な卑怯な行為とされ、どの子供にも恥ずべきこととして教えられている、この最後の逃亡行為さえも、歴史家たちの言葉にかかると正当化されるのである。

トルストイのこの言葉以上にナポレオンを厳しく、徹底的に糾弾した言葉はないのではないか。

膨大な歴史小説「戦争と平和」もいよいよ終りに近づいた。小説をこれほど感動して、真面目に、しっかりと読み応えたのは始めての経験だった。

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