定年後の読書ノートより
座談の愉しみ(上)(下)、岩波書店編集部編、岩波書店
雑誌「図書」連載の座談を本にまとめたもの。

内容は、思想、読書、語学、芸術、古典、文学と展開されていく。面白い会話が飛び出してくる

河野与一;繰返して読めってよくいわれるけれど、繰返して読める本にめぐりあうまでが大変だね。それを繰返して読む。昔の人は暗記したんだろうけれども、そういう本を早く見つけるんだね。

中野好夫;今すぐ読む本ばかり買っているのではない。すぐ読むのではないけれども買っておく。いつかは読む。

大江健三郎;二葉亭は明治時代一般の典型的知識人に対してはいわば否定的、批評的存在のインテリだった。その時代の知識人に対して批判的なインテリというものは、その時代独特のインテリの性格を持っているように見えることがある。

日高六郎;古典の読み方ということでいえば、古典は歴史を越えて訴えてくるものがあって、ある一つの時代、その状況、その機会に最も深くかかわっている書物だと思う。そういう著作であってはじめて、歴史ばなれした、抽象的あるいは原理的な教訓なりを引張り出せる。

丸山真男;具体的な問題に直面していくということと、真剣に現実に取り組むということ、いいかえれば解決すべき課題のなかにある矛盾をたじろがないで見つめるということですね。

松田道雄;わたしの周囲で、コムミュズムへいった人は、どっちかといえば優等生で、アナーキズムをやっていた人は、非情にエネルギーはあるけれど、学校を馬鹿にしていました。

中野重治;日本の共産主義運動は、全部清算主義的にやってしまおうとするので間違ってくる。「女工哀史」みたいなものの積み上げの上に、共産主義運動をリファインして練り上げていくという点が足りなかったと思う。

柴田翔;「甲乙丙丁」に宮本顕治氏をモデルにした吉野が、いかに魅力的であったか書かれていて、それが、共産党という組織の中でどんなにその姿を裏切っていくか、その変化を中野重治は道徳的欠点として糾弾しているけれど、問題はその過程と必然性のほうではないか。それは堕落であると同時に成長であるのではないか。中野自身も戦後党の中央委員も務めて、組織と人間のメカニズムも身近に観察し、自らの肉体と精神で経験したはずです。中野は厳しく倫理的な人でしたが、その倫理性がかえって自分の経験を見えなくしてしまっている。現代の日本でいちばん面白い問題を中野はパスしちゃった。

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