定年後の読書ノートより
シルクロードー東西文化の溶炉―岩村 忍著、NHKブックス
シルクロードへの魅力は、語り尽くせぬほど奥深く面白い。著者曰く、日本ほど異質文化の受容、摂取に熱心な国民は稀であると。そうかも知れない。自分にとって、シルクロード史前史を、是非この本で、学びたいとかねがね願っていた。

BC3000年人類最古の文明であるメソポタミア文明。巨大な都市国家成立の前提は農耕技術の進歩にある。むぎが広く栽培されていた。シュメール人の楔形文字、アッカド王国はセム系遊牧民に滅ぼされ、バビロン王朝はヒッタイト人に滅ぼされた。エジプト王国を倒したアッシリアも、同じようにヒッタイト人に滅ぼされ、アケメネス朝ペルシャはオリエントを統一した。ギリシャ都市国家はペルシャ帝国を滅ぼす。アレクサンダー大王はペルシャ軍を破り、オリエント文明とギリシャ文明を融合したヘレニズム文明を築いた。アレクサンダー大王はバクトリア・サマルカンドまで攻め上ってきた。セレウコス朝シリアがヘレニズム文明の中から生まれてきた。ここからパルティアを築いたのが、イラン系遊牧民。メソポタミアからイラン高原にかけて、BC200年、シルクロードが巨大な冨を生んだ。これを知ったローマ帝国は、BC1世紀シリアを滅ぼし、パルティアに浸入。当時中央アジアは大月氏からクシャーナ朝が栄え、ここにササン朝ペルシャが建国。

ササン朝文化が、中国文化を経て、日本文化になった典型的な流れは、水さしの形状変化にはっきりと現れている。ササン朝の銀製水さし、唐代の陶器水さし、正倉院の漆器水さし。この3つの写真はこの本のグラビアにもなっている。後漢を建国した光武帝は西域を重視し、インドのクシャナー朝を破り、シルクロードを確立するとともに、甘英をローマ帝国に派遣した。

1206年遊牧民族モンゴルのテムジンは諸部族を統一、部族長会議でハンになり、チンギス=ハン(太祖)の尊号を受ける。中央アジアホラムズ朝を滅ぼし、西北インド、南ロシア、ハンガリー、ドイツ、ポーランド、バグダードへ攻め込む。中央アジアはチャガタイ=ハン国が建設された。

興味深かったのは、チンギス=ハンがヨーロッパ侵略に際し、キリスト教国家指導者達の現状認識。ローマ教皇は、モンゴル人はサラセンの敵であるから、自分達の味方と認識、中にはチンギス=ハンはキリスト教徒だと言い切るうわさまで当時あったようだ。それだけに突然、暴風のごとく、襲いかかってきた悪魔がどんな素性の人間なのか、この本のグラビアには当時のヨーロッパ人のモンゴル人の想像図として弓を持った首長の怪物を想像しているのが面白い。東方の征服者を怖れ、恐怖のうわさ話でヨーロッパ人は閃閃恐々としていたようだ。

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