定年後の読書ノートより
ゾウの時間ネズミの時間、本川達雄著、中公新書
著者はあとがきで面白いことを書いている。動物学者の仕事とは、動物の世界観を読み取って、動物の生活を人間に納得いくように説明することだ。人間世界ですら違う世界観を理解しあえない。違う動物の世界観を理解するなど、余程の努力が必要だ。生物学はヒトという生き物を相対化して、自然の中でのヒトの位置を知ろうとする。生き生きとした自然にせっしていないと、人間はすぐに頭の中を見つめはじめ、そして抽象的になっていくものだ。抽象的になりはじめると、とめどなく思考のサイズは大きくなり、頭でっかちになっていく。

第1章、動物のサイズと時間が面白い。体重が増えると時間がながくなる。時間は体重の1/4乗に比例する。日常の活動時間も、矢張り体重の1/4乗に比例する。息をする時間間隔、心臓が打つ間隔、腸が1回じっわと顫動する時間、血液が体内を一巡する時間、等々。物理的時間で測れば、ゾウはネズミより、ずっと長生きである。ネズミは数年しか生きられないが、ゾウは100年近い寿命を持つ。

しかし、もし心臓の拍動を時計として考えるならば、ゾウもネズミもまったく同じ長さだけ生きて死ぬことになる。哺乳類は一生の間に、心臓は20億回打つ。時間とは基本的な概念である。自分の時計は何にでもあてはまると、なにげなく信じ込んで暮してきた。そういう常識をくつがえしてくれるのが、サイズの生物学である。サイズが大きいということは、一般に言って余裕があるということである。

身体が大きいことは強いことを意味する。大きいものは環境の変化には左右されずに長生きである。大きいものが補食者の食われにくいのは確かだろう。しかし小さいものでも、小回りが利いて物陰にかくれやすくて、ある程度の数は生き残る。島に隔離されると、サイズの大きい動物は小さくなり、サイズの小さい動物は大きくなる。偉大そうにみえるゾウも、出来れば「普通の動物」に戻りたいのだ。ネズミにしたって、補食者がいなければ、大きくなる。

我々は食べなければ生きていけない。エネルギーは食べた物を燃やすことから得られる。酸素をどれだけ使ったかは、エネルギーの目安になる。酸素消費量と体重の間には、対数グラフで直線になる。エネルギー消費は体重の3/4乗に比例する。ゾウの組織1gは、ネズミの組織1gよりエネルギー消費はずっと少ない。ヒトも他の動物ととりわけ違ったところはない。

しかし、日本人は標準代謝量の63倍ものエネルギーを消費している。

ここをクリックすれば、読書ノートの目録に戻れます。