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 細雪         谷崎潤一郎作     市川 昆 監督   東宝映画

この2月13日亡くなられた 市川 昆監督が創られた東宝映画「細雪」を観た。 長女役を演ずる岸恵子 次女役を佐久間良子、3女役を吉永 小百合、4女役を古手川 裕子、長女婿役は伊丹十三、次女婿役を石坂 浩二 それぞれ若き日の豪華俳優勢ぞろい。1983年(昭和58年) 東宝映画50周年記念 製作作品。


文豪谷崎潤一郎のこの長編「細雪」を文庫本で読んだのは、今から40年前 わが青春 独身最後の日々であった。膨大な長編の初めから終わりまで、芦屋のブルジョア娘雪子のお見合い話が延々と続き、文豪谷崎潤一郎は、こんな世界に 最大の関心事を集中しているのかと些か軽蔑にも似た目で眺めていた記憶がある。当時、芦屋には大金持ちが数多く住んでいて、芦屋世界なるものに相容れない感情を持っていた自分は この作品を、遠い世界のたあわむれか遊びくらいの印象でしか受け取れず、大した感動もなく、読み捨てていた記憶がある。


市川昆監督のこの名作映画を観て、「細雪」の世界が繰り広げている世界なるものを改めて再認識した。船場育ちの美女4人姉妹が、男と女の結合である結婚を機に 次第に深窓の世界から現実の世界へと触れていく経過の中に、美しい4人姉妹それぞれが何とも言えない、穏やかな、上品な香りをかもし出し、その気品に満ちた清らかさは、観ている者に、静かな、しかし、豊かな感動を与えてくれる。文豪谷崎潤一郎が描こうとしていたのは、こういう世界だったのかと初めて見えて来る。


大阪船場生まれお嬢さん達、本家の格式を次第に紐解いていく長女蒔岡鶴子を演じる岸恵子のゆったりとした目と身体の動き、芦屋夫人の満たされた生活の中で、妹や姉に細かな気使いをしていく次女幸子を演ずる佐久間良子の理知的な若妻の立ち振る舞い、常に物静かで、控えめな3女雪子を演ずる吉永小百合の芯の強さをチラリと見せるきれいな横顔、現代的な生き方を自ら選択し積極的に自分で歩く4女妙子を演ずる古手川裕子の明るく活発な若さ、これら4美女のすべてが美しく、綺麗で、上品だ。


美しさの中に、静けさの中に、清らかさの中に、満たされた美女達の幸せがある。「結局皆幸せになっていくのね、嬉しいわ」 最後につぶやく岸恵子の笑顔も印象的だ。


この映画を創った市川昆監督は、文豪谷崎潤一郎が描こうとした世界をきちんと読み取り、これを美しく、感動的な映画に仕上げているのが素晴らしい。これこそが美であり、芸術だと実感する。


今から40年前、この小説を読んで、自分勝手にブルジョア否定の意識から、作品の描き出している美しさすら見えていなかった自分自身を恥ずかしく思う。しかし今こうして年齢を重ね、人生を終わろうとしている時、初めて ああ男と女の引き合う世界とは、なんて美しく 素晴らしい夢物語なのかとあらためて、映画が教えてくれた人の世の生きる姿の美しさ・素晴らしさに感動し、これほど素晴らしく 大切なことを 映画によって 初めて教えてくれた市川昆監督に心から感謝したくなる。

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