定年後の読書ノートより

時間をぜいたくに使う技術、鷲田小弥太、双葉社、2000/4
人生くねくね道の歩き方、鷲田小弥太、サンマーク出版、2000/4
知的に生きるための思考術、鷲田小弥太、2000/2
入門論文の書き方、鷲田小弥太、PHP研究所、1999/5
哲学詞華集、鷲田小弥太、PHP研究所、1998/11
福祉倫理学講義、鷲田小弥太、三一書房、1998/3
哲学を知ると何が変るか、鷲田小弥太、講談社。1994/5
哲学がわかる事典、鷲田小弥太、日本実業出版、1992/11
哲学の構想と現実―マルクスの場合、鷲田小弥太、白水社、1983/8
刈谷図書館で調べたら、鷲田小弥太氏の書いた本は、56冊も蔵書されており、驚く事にその半数以上は、目下貸し出し中になっている。人気作家なのだ。56冊の殆どは、いわゆるハウツーものであり、どんな内容か、今回その幾冊かを選んで読んでみた。

大半がまだ最近の出版である。1991年頃までの作品の殆どは、崩壊していく社会主義諸国に関して、その背景をマルクス理論の誤りなるものに焦点をあててソ連崩壊の予測地図を書いていた。その地図はかなり早い時期からソ連崩壊を正確に指摘したものであり、事実鷲田氏の指摘する方向に、国際情勢は動き、現時点でこれらの動向予測を修正する必要は殆どないところに我々が氏を注目し、氏のいうところに耳を傾けようとする動機がある。

それらの本は、当時谷沢永一、長谷川慶太郎、曽野綾子、いいだもも、渡辺昇一等、いわゆる右側の評論家達等に注目され、彼等の口ききで出版業界に折り紙付きで売り出された。氏の表現によれば、50代にして思わぬ膨大な額の収入が驚くように入ってくるそうな。お陰でこれらハウツーモノには、「すすき野高級飲み屋」で如何に豪華に遊び回るかの手法まで披露されている。氏は倫理学を教え、福祉倫理学講義なる本も出版しているが、今はかっての反体制政治運動に代わって、ボランティア活動を続けているそうだ。娘を連れて九州までボランティア、本人いわくこれは華麗なる浪費である。

氏はこれらの本で幾つかの人生のコツをご披露している。かって氏は「大学教授になる法」という本をだして、世間をびっくりさせたが、この類の処世術が次々に本になっていく。氏は正に超売れっ子教授であり、その影には転向哲学者、自称裏切り者哲学者なるうしろめたさなど、微塵もない。マルクス主義哲学の呪文より解放された、いや自らを解放した、未来を正しく読み取れる男として、自信を持って自己を売り出している。

氏の文章は実に明るい。積極的である。陰にこもった作為的文章ではなく、正直だ。オープンだ。しかもいつも自分を隠さず、自分の過去を語る。深い思索がその奥にある。見事としか言いようがない。しかし自分は、氏が、例え亜流であるにせよ、マルクス主義哲学を専攻した哲学者であり、氏が、何故マルクス主義崩壊を予測し、理論的にその必然を警鐘し続けることが出来たかに関心がある。

鷲田氏の書く哲学書は非常に読みやすい。難解なカントやヘーゲルを実に解り易く解説してくれる。往々にしてマルクス主義者がよく使う手で原典引用によって殊更威厳を付けようとするかの如き風潮などは氏には微塵もなく、原典を素人にも理解できるレベルまで解説して話してくれる。こんな哲学者は少ない

一方氏のマルクス主義哲学者の学界へ提起したかっての哲学論文は実に格調ある難解な文章から構成されている。要するに幅広く書ける人。だから編集者達が、彼に書かせるのも無理はない。かっての転向者達、例えば林房雄や三田村四郎、鍋山貞親等がマスコミでもてはやされた書き物とは全然違う。例えば「日本共産党の研究」を書いた立花隆氏の如き、これからも自信をもって我が道を行くよという姿勢と同じだ。私はこうした意味でこれからも氏の動向を見守っていきたい。

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