定年後の読書ノート
星の王子さま(1962年第1版発行)岩波書店 サン・テクジュベリ著(1900年生44年没) 内藤濯訳
手元に「星の王子さま」に関連する本が2冊ある。1冊は、富山大学フランス語教授塚崎幹夫著「星の王子さまの世界―読み方くらべへの招待―」という中公新書で「星の王子さま」は、実は深い意味を秘めた反戦物語であり、それを読み取る読者の読解力を側面から支援する目的で書かれた本で、活字だけを読んでは直ぐに読み取れないこの本に隠されたファッシズムと闘うヒューマニズムの美しさと哀しみを解き明かしていく、ときめきに似た魅力に満ちた1冊である。しかし塚崎先生の如くここまで、きちんと正確に読めるのは、サン・テクジュベリのフランス語原文を読んでおられるからであり、自分も資本論を英語版で読もうと決意したのも、塚崎先生の如く出来る限り言語原文の近くに立つ大切さを学んだからでも ある。

もう1冊はフランスで発行されたLe PetitPrinceで、塚崎先生の影響で、それなら自分もフランス語で読もうと思い、フランス語独習書として半分くらいまで、辞書と首っ引きで読んだが、結局最終読破には現在までのところ至っていない。実は岩波書店内藤濯訳の1冊も、途中までは何度も読んだが結局最後まで読んだのは今回が始めてだった。

まだ小学生の頃、雑誌「少年クラブ」「少年」等に自分はものすごく熱中していた。その頃サトウハチローが、全然子供にとっては面白くも無い、主人公少年の視点で語り続ける子供の話が連載され、これを読む度に大人は子供の心が全く掴めていないくせに、いらぬおせっかいに面白くも無い物語をいつまでも連載していると少年雑誌に怒りを覚えたことを思い出す。

実は「星の王子さま」を読んだ時も、何故かこのサトウハチローの子供用物語を思い出した。サン・テクジュベリは明らかに読者として大人を想定して書いているのに、どうして童心の世界で物語を構成したのか。これを何も知らない子供に無理に読ませて子供達は自分がサトウハチローの小説に怒りをおぼえたと同じく、きっとすごく迷惑しているだろうなと推定する。念のため図書館で調べたら、「星の王子さま」は、児童書室にはあっても成人用図書の中には入っていなかった。

子供は純真だが、幼稚だと決め付けている大人は子供を知らない。小学生といえども、深く思考を集中すれば大人以上に現実的、具体的、総合的に物事を考えることが出来る。それに気づかない大人は、子供の世界に駄菓子まがいの砂糖包みを持ち込んで笑顔を振り撒く。いいかげんにしてくれと言いたくなる。あたかも、展覧会で抽象絵画を理解できていないことを隠し、一枚一枚真面目な顔して絵を覗き込むきれいな服を着たおばさん達の如く子供を判っていると決め付けている大人達のしたり顔。想像するだけでも不愉快だ。子供を侮ってはいけない。大人は先ず大人を見詰めなさい。子供語を話したら子供達がいつも歓迎して迎えてくれるとでも思っているなら、いいかげんにしなさい。子供達は迷惑しています。僕はサトウハチローのしたり顔のあのつくり話を連載していた少年雑誌が憎いとさえ感じた少年時代を今もありありと思い出す。

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