読書ノート
みずうみ テオドール・シュトルム著 植田敏郎訳 世界の名作文学 岩崎書店
大学のドイツ語副読本として印象に残っているので、読み直してみた。184932歳の作品。短編。幼なじみのエリーザベットは、可愛い女の子。少年ラインハルトは、いつの日か妻に迎え、2人で外国へ行きたいと夢を見る。森と湖の静かなドイツの山間村。ラインハルトはやがて町の学校へ。2人はお互いの気持ちを知りながら、寡黙に。やがてエリザーベットは、母の立ち回りでラインハルトの友達エーリッヒと結婚。結婚後の友人を訪ねたラインハルトは、今も自分を愛してくれているエリーザベットを知り、急いで故郷を後にする。そして今や老人となったラインハルト、夕陽が落ちた山荘の1室で、一人哀しく青春を思い出す。安楽椅子に座る老人の周囲はもうすっかり暗くなった。老人は1人静かにつぶやく。「エリーザベット」と。
感傷的な、青春、愛の物語。ドイツ語で印象に残るのは、ラーメン・エルチェールングという冒頭、老人が夕闇が迫る山荘の一室で、かっての恋人の名前を1人静かにつぶやく場面である。しかし、この小説は今読み返すと決して感傷小説ではなかった。生活の生々しい現実は後方に押しやられてはいるが、作者は決して生活を批判したり、反抗したり、言わんや男女のきわどい接近をちらつかせる手法などもなく、大自然と生活環境を重々しく中央に据えつけ、人々の運命をそれぞれの流れとして、むしろ抗せずに淡々と描いている。それはあたかも大自然に素直に従っているのが人間の当然の姿である如く。

自分はこうした人生の捉えかたに共感していたのかも知れない。自分は禁欲主義、清貧主義を美しいと思うし、尊びたい。禁欲生活が一方にあって、はじめて他方に政治思想が成り立つ。権力を握るまでの毛沢東は素晴らしかったが、文化大革命を強行した毛沢東は憎い。レーニンは立派だが、粛正を重ねたスターリンは罪人だ。極貧の生活の中で作られた資本論だからこそ、論敵も手も足も出ない。人間は自分の欲望の程度を、きっちりと抑制出来てこそ、始めて生きるに値する。清貧は大切な言葉だと思う。

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