定年後の読書ノート

近代民主主義とその展望、東大名誉教授、福田歓一著、岩波新書

岩波新書には、味わい深い本が幾つかある。民主主義という言葉は、我々すでに既成な政治機構、既成な価値概念という認識で、ことさらに胸がわくわくするような言葉ではなくなった。しかし、昭和20年代の教育では、学校の先生方も民主主義を情熱を持って教えてくれた。この本を読むと当時の先生方の若々しい情熱が懐かしく思い出される。

本は、民主主義の歴史、理論、現代史、そして展望から成る。古代ギリシャからはじまり革命後のソ連における民主主義の問題点まで、判りやすく歴史的事実を背景にしながら福田先生の講義は進む。きっと東大法学部での講義録を下敷きにされたのだろう。

ここでは福田先生の講義の中からフランス民主主義の歴史だけを短くまとめてみた。

フランスは、かって絶対王政が強権で作り出した地域国家である。18世紀英国立憲主義から強い影響を受けてフランス啓蒙思想は始まる。ルソーが主張したのは民主主義の構成原理、人民集会である。これはギリシャ古代ポリスの伝統を引き継ぐものである。フランスでは、国教を強制する強い思想統制があった。国教を強制し、異端を弾圧することは、カトリックひいては宗教一般に対する反感を生むものであった。1789年フランス革命が求めたものは自由と平等である。

フランス革命を指導した啓蒙思想家は急進的であった。国民議会、人権宣言で発足した革命がさらに急進化したのは、周辺からの激しい干渉戦争に原因がある。ジャコバンの独裁、ロスピエールの憲法、仲間を“人民の敵”とする恐怖政治が始まる。フランスは革命後の100年の間に、6回も政治体制を変えている。共和制から帝政に、帝政から王政復古に、その王政も今度は立憲王政になり、共和制になり、帝政になり、共和制になる。こうしてフランス革命の成果は無残に摘み取られていく。

独裁権力は、民衆の投票により成立している。確かに国民投票は直接民主主義的な制度として、いかにも民意を反映しているかのように見えるけど、それは情緒的な人気によって左右される。フランスに民主主義が制度化するのは、パリ・コミューン崩壊後の第3共和制以後である。

フランス議会制を政治的に安定化させたのは、絶対王政時代からつちかわれた強大な官僚制であり、中央集権制であった。ドレフェス事件は右翼勢力を強め、これに抵抗する社会主義者の政権参加がフランスでは進む。こうした民主主義の伝統が絶頂を示したのはナチス抵抗の人民戦線である。しかし大戦後植民地の清算に失敗した左翼に対し、ド・ゴールというカリスマ指導者をたてた右翼の復活を許す。

この短いフランス史は、自分の小さなメモに過ぎないが、この新書は一貫して格調高い民主主義の歴史と理論を説き、その内容は簡単には学び尽くせない。福田氏は、さらに岩波新書に「近代の政治思想」を著述しておられ、自分は続いてこの「近代の政治思想」を目下読書中である。

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