定年後の読書ノートより
教育とは何か、太田尭著、岩波新書
戦後民主教育の中で、氏の半世紀を記録した「教育とは何かを問い続けて」の続編として、1990年に発行された1冊である。太田先生は東大教育学部長、都留大学学長を経て今は名誉教授になっておられる。先生は「はしがき」に書いておられる。教育というものを何よりも人間という動物種の育児行動、種の持続のためのいとなみとしてとらえ直すところから出発したいと。前編では社会科学の土台の上に教育はどのように位置づけられるかという視点で格闘されてきた太田先生も、この書では、哲学的な意味で、人間の基本から見直しの必要を自問されていく。

ヒトが人になるということは、社会的行動能力と目的意識性を持つということ、人間の可能性は選択をし続ける過程に生まれてくる個体差の重要性の認識、教育とは文化を「わかち、つたえ」ることだとする基本に立つとき、かっての職人の生業収得としての教育と、エリート選別手段としての現状教育実態にふれ、臨教審とのやり取りの中で著者の描く、教育のあるべき姿を明らかにしていかれる。

著者は説く。種の持続としての教育は、子供の私物化ではなく、新しい世代の担い手として、生命と個性の尊さを認めて、皆が共同して、守り育てることだと。親は子供の教育の信託を受けたからといって、子供の独占支配は許されない。優先的な世話役である。地球的規模で次世代の人類、種の持続を目指そうとする条約が成立しようとしているとき、この国の国家の教育権を固守しようとする振る舞いは許されない。

子育て、教育は、人間という動物種が地球上の他の生物との共存をめざしながらその種の特質を持続させ、地球社会の発展に寄与することを目的とするのだということをはっきり確認する必要があると著者は説く。

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