定年後の読書ノートより
ソ連解体後、新潟大学教授小川和男著、岩波新書
1991年8月ソ連は崩壊した。著者は80回以上の訪ソ経験を持つ、ソ連の実態を直に見る一人。著書はソ連解体後の人々の動きを生々しく記録している。主題は経済動向であるが、自分にとって興味があるのは、そこにある人間模様である。

共産党解散は党大会を開催して決議されたわけでなく、ゴルバチョフ氏の宣言だけである。この時、党員は1500万人もあり、ノーメンクラツーラと呼ばれる特権高級党員は70万人もいた。旧ソ連の共産党による一党独裁体制では、優秀な人材ほど、若い時から入党し、体制に帰属していた。共産党の消滅は彼らにショックを与え、党員であったが故に失職し、生きる目標を失い、失意のうちに転職せざるを得ない人も多い。旧ソ連は長く「コネ」社会であった。旧党員達は「コネ」を頼って再就職を要領よくたちまわる人もいる。能力ある党員は経済マフィアの幹部になって暗躍し、今様ビジネスマンとして旧高級党員の「コネ」を利用して利権を貪っている人もいる。庶民の間には、極端な自己中心主義(ミーイズム)が横行し、弊害をもたらしている。永年の価値観は急速に崩壊し、社会的混乱は深まり、激しいインフレの中で、ミーイズムは人間を大きく変えている。学者や研究者の中には急に老け込む人が多く、有能な人ほど外国での職探しに余念がない。「にわか成り金」が出現し、富裕層と一般層の格差は広がり、低所得層の不満は高まっている。闇市場におけるマフィアは国家権力機構と結びつき、国民モラル低下の大きな一因になっている。エリツインは経済音痴であり、ブレーンに頼らなければ経済の舵取りは出来ない。米国のマネタリズムを信奉するブレーン達は、急速な市場化をうまくコントロールは出来ていない。資本主義国との技術ギャップはあまりにも大きく、格差はますます広がっている。上意下達の計画化経済システムのもとでは、自主裁量の余地はなく、技術革新も起こることはなかった。そうした風土に急速な市場主義経済導入は社会的混乱を招いている。キューバ、ベトナム、モンゴル、北朝鮮はソ連によって支えられてきたが、もうソ連にはその力がない。資本主義国の援助に頼らざるを得ないだろう。しかし、北朝鮮はソ連の資本主義諸国への接近を「物乞い」と蔑む。まだまだソ連解体後のたしかな方向は見えてこない。

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