定年後の読書ノートより

生涯発達の心理学、高橋恵子・波多野誼余夫著、岩波新書

中高年は、衰退の一途をたどる哀れな存在か。知的能力も衰えているのか。中高年の斜陽イメージと、生産性第1主義の効率意識が結びつき、「役立たず」の年寄りを社会から「隔離」しようとする意識がどこかに潜んでいないか。いつの間にか新しさ、若さ、速さを善しとする現代文明に慣らされてきた我々は、ややもすると、年をとることの価値を忘れているように思われる。中高年は「役立たず」などと発言するとは、今や「時代遅れ」である。自由を謳歌している中高年、進歩的発言を続ける勇気ある中高年、若者がうらやむ精神的充実を追求する中高年は周囲に幾らでもいる。

中高年期とは、人間を長く続けてきた、年輪の価値が発揮される、素晴らしい時期である。発達心理学は、これまで中高年を視野に入れてこなかった。これは大きな過ちである。WAISの青年期をピークとする能力発達曲線には疑問がある。確かに図形弁別や図形構成等で測定される流動性知能は青年期をピークに降下するかも知れないが、語彙や社会的知識に代表される結晶性知能は中高年期に至ってもまだ上昇途上にある。実際、職業の場であれ、趣味の世界であれ、ある領域に長期従事していれば、有能さが上昇していることは誰もが経験する。中高年は「己を知る」つまり「自己」が確立している。人は一人では生きられない。様々な人と愛情を交換して暮らしている。誰かを愛し、誰かに必要とされ、多くの人と心を通わせ、支えられて暮らしている。高齢者の愛情は「貰う愛情」だけでは満足しない、「与える愛情」「分かち合う愛情」が生き甲斐となる。

中高年は自由になった時間を何に賭けるべきか、まず彼は何かの分野でエキスパートであること、そしてその構造化された知識を、その有能さを死に至るまで低下させずに永らえること。そして今までの人生でやれなかったことを、思い切ってやってみること。当人が思い立った時が適時である。健康で有りさえすれば、若い時期よりずっと身が軽い上に、知恵は豊富だ。熱中出来る。そのために必要な事は、先ずエキスパートであること、専門とする分野の構造化された知識を持っていること、健康であること、よき家族、友人に恵まれていること。

アジア各国、人生経験豊かな長老の判断を尊重するのは、判断の場数を多く踏んでいる長老は信頼出来るからだ。中高年は人生の数々の経験の中で、彼なりの人生観、社会観を確立している。中高年は自己が充たされる時、仕事にせよ、趣味にせよ大いに能力が発揮される。中高年は自分がしたいことのため、自分を統制するのが上手である。自分の希望を実現する為に自分を抑えることが上手である。中高年を支える上手なやり方は、中高年の知的有能さを生かし、出来る限りその有能さを発揮出来るように助けること。有能さを発揮する有効な社会的機会を用意することである

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