定年後の読書ノートより
アトラス現代史<全6巻>・イギリス、ブライアン・キャッチボール著、創元社
19世紀のイギリス史をきちんと学んでおきたい。これはエンゲルス「イギリスにおける労働者階級の状態」を理解する為にも必須であり、将来の最大テーマである暴力革命は避けられ得るか否か、それはエンゲルスの時代と現代との時代背景の違いをどう歴史評価していくか、この視点が絶対に必要だと思うからである。

イングランド・ウェルズの18世紀人口は600万から900万人に増加した。アイルランドからの移民、救貧法による乳幼児死亡率減少、出生率増加による。英国は農村社会であった。小地主、ジェントリーは囲い込み運動の過程で没落していった。英国はオランダと共に先進通商国であった。奴隷貿易=「三角貿易」で、リバプールの港はにぎあった。羊毛王国英国にインドから綿花原料が入ってきた。1733年ジョン・ケイは、フライシャットルを発明、1763年ハーグリーブスはジェニー紡機を、1769年アークライトがウオーターフレーム、1772年サミュエル・クロンプトンはミュール精紡機、1787年エドムンド・カートライトは動力織機を発明した。マンチェスターを中心に繊維産業が工業化のスタートをきった。

英国には石炭が産出した。採炭では地下水のくみ上げが最大問題であった。1705年ニューコメンは蒸気を利用した排水用気圧機関を発明した。原料や製品の輸送に河川が利用された。マンチェスターの産業に必要とされる石炭はブリンドレー氏により運河が活用された。石炭価格は劇的に下落した。1775〜1783年植民地アメリカと独立戦争、フランスはアメリカ側についた為戦争は英国の敗北で終った。しかしアメリカは英国にとって貴重な輸出市場である。1789年フランス革命、政府は革命の過激思想影響を抑えるのに必死になった。不穏な過激思想がアイルランド情勢に飛び火することをおそれた。ネルソン総督が幾度か海戦で英国を救った。1800年ローマカトリック教のアイルランドと信仰は名ばかりのイギリス国教徒との間に合同法成立、大量の労働者が英国マンチェスターにも流れ込んできた。対ナポレオン戦争や米英戦争で英国は大陸に勝利した。1812年労働者は生活の苦しさの原因は機械こそが敵だとする素朴な発想からラダイト反乱がランカシャーを中心に大荒れした。政府は死刑によって首謀者を弾圧した。貴族階級を中心とする一部特権階級にのみ奉仕する議会、被支配者と支配者との対決姿勢は過激化した。そうした中で産業の機械化は進み、グラスゴーには化学プラントも出来た。繊維産業の機械工業化は手職工の地位下落を招き、労働者の急激な増加は労働者街のスラム化と女子幼児等の職場進出となり、景気変動の波は常に労働者側にしわ寄せをきたし生活はますます深刻化した。しかし支配者への反抗は常に指導者、扇動者の極刑に終わり敗北した。

1831年イギリス人口2400万人に対し、議会選挙有権者はたった44万人、工業都市からさえ1名の議員も出ていなかった。貴族とブルジョアジーとの戦いの中から1832年第1次選挙法改正、しかし労働者階級には裏切りの改正に過ぎなかった。そんな議会の貧民救済制度の改正による救貧院制度は真に労働者を救うものではなかった。都市労働者街のスラム化は深刻化し、マンチェスターは産業革命の醜悪な側面をさらけ出した。労働者の生活向上と議会選挙制度の改革を求める声は1833年チャーチスト運動となる。チャーチスト運動は長期にわたる議会請願運動を展開、労使対決はこの運動によって大きく揺れ動いたが、1843年イギリス経済繁栄で運動は徐々に衰えていった。イギリス農業を守るという口実で、輸入穀物を規制する穀物法に反対する同盟はブルジョアジーを中心に盛んであった。時にアイルランドでは芋凶作と絡んで事態は思わぬ進展をする。一方アイルランドでは芋の胴枯れ病影響で、100万人が餓死。さまよえる125万人がアイルランドからカナダ・アメリカへ、150万人がイングランド、スコットランドへ移民、こうした労働者底辺の人口移動は産業革命下の重要な労働者予備軍充足の役目を果たす。イギリスでは労働組合運動は国家にたいする犯罪であった。労働者は低賃金と労働条件に対するいかなる抗議も許されなかった。全国労働組合大連合GNCTUを組織した首謀者はオーストラリアへ流刑。スティーブンソン親子による蒸気機関車は鉄道建設ラッシュ。蒸気機関の発達で工場は都市に集中した。紡績工場では長時間、婦女児童労働が低賃金下で行われた。議会の規制は必ずしも本腰ではなかった。工場法の実効は挙げられなかった。鉱山における労働条件はさらに劣悪であった。

労働者の生活環境は深刻で、家庭生活は陰惨であった。病気は蔓延し、都市は益々スラム化した。

エンゲルスが「イギリスにおける労働者階級の状態」を書いたのはこうした時代背景のもとであった。エンゲルスは資本家と労働者、この社会の不平等を生み出している根底に「競争」があることを重要視している。たしかに競争こそ、社会発展の原動力であると共に、敗北者をも生み出していく原因でもある。しかし150年間の人間の知恵は、ここに民主主義による規制の重要性を認識し、議会を通じて労使規制が可能であることを実証してきた。

エンゲルスの時代から150年、人類進歩を学ぶ事こそ大切であり、そうした視点で現在を見つめ直したいと今考えている。

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