定年後の読書ノートより

ヒトラーとユダヤ人、大沢武雄著、講談社現代新書
ヒトラーが1945年4月29日ベルリンの地下壕で残した遺書では、ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅を目指した自己の活動に何ら悔恨の念などない。むしろこれを国民に対する愛と忠誠の行為として誇りとよろこびに満ちて死を迎えると結んでいる。戦争は国際ユダヤ主義の陰謀であると言い切り、自己の責任など全然意識にはない。ヒトラーの残虐性を歴史的事実として我々は永遠に記憶すべきことは勿論当然だが、何故ヒトラーの如き狂人が生まれるのか、その背景をきちんと解明しておかねばならない。

ナチ党は、経済的破綻に瀕した国民を扇動する手法として、常に反ユダヤ主義風潮を刺激した。ヒトラーの反ユダヤ感情を駆り立てていく扇動論法は、

  1. ユダヤ人には利己主義的労働意欲しかない。
  2. 北方アーリア人種は劣等種を陶汰し、健全で純潔な人種を保ってきているが、ユダヤ人は無秩序で、支離滅裂な同血生殖、近親結婚により、あらゆる欠陥を人種としてもっている。
  3. ユダヤ人は放浪の民であり、その過去の歴史からして、なんら独自の文化、芸術を残さなかった。現在活躍している多くのユダヤ人はいかさま芸術家や音楽家ばかりで、彼等はユダヤ人新聞と結託して宣伝し、芸術を我が物顔に支配している。
  4. 従って我々はユダヤ人を、排除、追放する。
  5. ユダヤ人の経済力を取り去る。
  6. ユダヤ人との対決は時至れば徹底的に行う。
  7. ユダヤ人の歴史を振返ってみると、搾取者、吸血鬼としての彼等に対しては、当然の結果として今日に至るまで絶えず反ユダヤ主義が存在しているのである。
  8. 私ヒトラーは、ドイツ国民社会主義者として演説で述べた計画を、最後の力尽きるまで遂行していく覚悟である。と。

マルクスは哲学的考察の中で、そもそも人間は共同体的存在であると位置づけている、

しかし疎遠な利己的個人となっていることから生じた人間の疎外態として、近代国家、宗教の実態を解明しドイエッチェ・イデオロギー、経済学・哲学草稿等を書いている。

現在の戦争は民族間問題の境界線上で発生する、コソボ、インパキ、アフリカ、アフガン、そこには、思想、経済的対立ではなく民族的対立が人々を戦争に駆り立てている。人間は共同体的存在なるが故に、自己結束は堅く、異邦人・他民族への対決本能は今も大きく人を動かす。この歴史的習性を明確にして、ここからナチ台頭の歴史的背景を考えたい。これから世界のあちこちで発生するであろう文明の衝突を正しく把握する為には、まず人間の根本を明確にした哲学的解明が必要なのだ。

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