定年後の読書ノートより
寅さんと日本のくらし、山田洋次著、リブリオ出版
寅さんを始めて22年になります。日本も随分変りました。柴又江戸川風景もすっかり変り、時代もせせこましくなってしまいました。肝心の寅さん家族も22年間に年をとるのは当然です。満男君の子役が成長するのが早いのには苦労しました。

寅さんが満男になぜ大学が必要か語る場面があります。競争社会と縁のない男、寅さん。皆が一生懸命に走っているときに見物している男、そんな寅さんが満男には新鮮に見えてくる。やがて満男は寅さんに一目も二目も置くようになる。

日本の都市生活、ちゃぶ台からキッチンに変ったけれど、今度は家族がバラバラで夕食をするようになる。かって映画の黄金時代、撮影所には、いつもブラブラしている妙な人が一杯いました。やがて映画が斜陽になり、合理化がすすみ、一生懸命働く真面目な人だけが残り、妙な人達は締め出されていきました。ところで映画作りとは不思議なもので、一生懸命に働く監督必ずしも良い作品を作るわけでは有りません。どちらかといえば、真面目に働く人の映画はあまり面白くない、よくできているけど、映画は不思議なものです。結局ほんとうに楽しい映画を作る集団というのは、集団でいること自体楽しくなきゃいけないのです。みんなが一生懸命働くだけの集団だと、できる映画もどうも一生懸命作ったという印象だけ残るけど、肝心の観客の心を楽しませてくれるという部分において欠けるところがある。集団の雰囲気が映画に反映するということが判ってきたのです。大きな包容力と、いつも明るい気分でいなきゃ良い作品は出来ないのです。

日本の豊かさの陰になにやらひどい貧困が忍びこんでいるような不安、窮屈で暮らしにくいことに気づく今日このごろです。人間が人間を管理する、能率的に動かそうとする、しかし誰もその逆は考えない。

傑出した人間が一人生まれるには、寅さんのような面白い人間を同時に沢山生みだすことだとサッカーチームの選手育成法は教えています。子供の頃から管理、管理で子供をしめつけてしまっている大人のものの考え方に間違いがあるように思います。ボール遊びを心から楽しむというふうにならないといけないですね。親が子供をいじりすぎてはいけないのです。

素敵な集団は、人間の個性を伸ばしていく力を持っている、つまり一人一人の人間がそれぞれ個性的になるってことは、伸びやかな集団の中で育っていくということだと思います。管理すれば、その力は消えていくのだなと思います。今日本の現実を考えると、家も乗物も立派になったが、人の気持ちはそれに反比例して、荒涼としてきたという思いが映画をつくっていて感じます。

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