定年後の読書ノートより
いまマルクスが面白いー現代を読み解く事典、いいだもも等、有斐閣新書
過日神戸大二宮厚美先生の講演を聴いた。「世紀末不況にあえぐこの日本は、2頭の暴れ馬に引張られながら、新世紀への架け橋を渡ろうとしている。1頭の馬は軍事強国をめざす大国主義的改革、いま1つの馬は新自由主義的改革である」と。こうしたゾクゾクするような現代日本の政治、経済分析はマルクスの「資本論」をきちんと読んでいないと直ちに理解出来るものではない。茶の間のニュース解説程度で聞き流してしまうのが大抵の常識人のオチである。

この本は古本屋で100円で見つけた。ポストモダン派と言われるいいだもも等マルクス学者達が、1988年有斐閣新書でかき集めた落書きノート。タイトルが面白い。ところが読んでみると、内容もなかなかなもの。「資本論」を学んだ学徒だけに、現代社会のキーワードにつながる世相横断解説は実に鋭い。

例えば今世紀とは何かというページ。今世紀は西欧文化だけが、地球上の他文化を圧倒し、西欧文化の優越性を全世界に押し付けた世紀であった。19世紀の知性は文化の質的な差異を見落とし、量的な違いだけを基準にして発展史観を確立してしまった。マルクスもこの限界の中にいる。「唯物史観」は社会の底に生産力という量的なものを透視し、図式をまとめあげた。西欧中心的、発展的歴史観で掴んだ純粋資本主義、19世紀の枠の中でこそマルクスは「資本論」を書けたのだと日高先生は結ぶ。そしてもっと詳しくしりたい人には、ご親切に参考図書が必ず挙げられている。

選ばれたキーワードが面白い。M&A,ODA,兼業農家、財テク、地上げ、終身雇用の崩壊、中流意識、性の商品化、老後生活の不安、累積債務等々。こうしたキーワードを多分に世相を斜めから眺めて遠慮なく書き綴る。そしてそんな雑談のオチが自然と偉大なるかなマルクス「資本論」へと落着く。この新書、資本論を読んだ人だけに判る面白さがあちこちにある。「資本論」を読んでいれば、現代社会このようにありありと、クリアーに見えてきますよと、多くの執筆者は「資本論」読者の一人であるプライドと気構え持って、読者に呼びかけている。

ここをクリックすると読書目次に戻ります