自転車の歴史探訪

 
現存する国産ミショー型自転車

   2007年4月1日付けの神奈川新聞に
 「江戸の自転車」公開という見出しで、平塚市博物館のミショー型自転車が載っていた。この自転車は、東京にあった交通博物館が、2006年に閉館となり、寄贈者に返還されたもので、平田忠心(1898〜1988)さんの遺族が郷土の博物館へ再寄贈したものである。新聞にはさらに初輸入「ミショー式」とも書いてあった。
 私は、以前にこの自転車を交通博物館で見ている。平塚は近いので、いつかまた見に行こうと思っていた。
 2008年2月15日、あらためてその自転車を見に行く。博物館の受付で、写真撮影の許可申請書を請求したところ、フラッシュをたかなければ撮影して差し支えないとのことであった。
 早速、その自転車を探す。受付からすぐのところの右側ガラスケースの中に、その自転車があった。カメラを取り出し、撮影を始める。館内はかなり薄暗いので、ピンボケが心配だったが、三脚もないので、しゃがんで右膝で固定しながら20枚程撮影した。家に帰りパソコンで映し出したところ、すべてピンボケであった。ピンボケ具合が比較的少ないのが下の写真である。

1 平塚市博物館のミショー型自転車 2008年2月15日撮影 

 撮影のあとガラスケース越しに、その自転車をゆっくり見た。まず気になったのは、きれいであるということだ。100年以上経っているとは思えない感じがした。まさかレプリカではないだろうが。本当にこの自転車が当時のものなのか、疑問に思えてくる。
 解説には、次のようなことが書いてあった。

 ミショー式自転車は、1863年にフランス人のピエール・ミショーが考案した、世界最初の量産自転車です。自転車が初めて日本に渡来したのは慶応年間(1865〜1868)といわれており、それがミショー式であったといわれています。展示したミショー式自転車は、明治2年(1869)にアメリカから購入されたといわれています。

 この解説の内容は、恐らく遺族から聞いたことだと思えるが、それをあえてここで否定するつもりもない。とりあえずその解説は尊重したい。

 はたして、この自転車は何時頃作られたものか、見ただけでは判然としない。フランス製のミショー型であれば、フレームに金属製のメーカー名の楕円プレートが貼られているので、すぐ分かるが、そのようなマークや刻印などはどこにも見えない。はたして、これがオリジナルなのか?レプリカなのか?或いは外国製なのか?分からない。もし、国産のオリジナルということであれば、恐らく現存する資料や他の自転車から判断して、明治10年前後に鍛冶職人か車職人あたりが製作したものと思われるが、モダンなヘッドチューブが気になる。或いは、製作年がもっと新しいかも知れない。分解して詳しく調べれば、何か手がかりがつかめるかもしれないが、いずれにしても、今のところ分からない。
 最初に目についたところでは、ハンドルである。どうもこれは後で付け替えたような気がする。特にボルトがいけない。無造作に最近のものをつけている。このようなボルトを見ただけでも、この自転車の信憑性を損ねる。細部をよく見れば、もっと不自然な箇所があるかも知れない。レストアも時にはしなければならない場合もあろうが、意味のない、間違ったレストアをするくらいなら、そのままの状態が望ましい。再塗装を含めたレストアは基本的にしない方がよい。

 日本に現存するミショー型自転車は、現在、19台確認されている。その中の何台がオリジナルなのか、レプリカなのか分からない。また写真が古く重複しているものがあるかも知れない。一応すべて明治時代のものとして、以下見て行きたい。写真がないものはリストを参照願いたい。
 写真の殆どは、1984年の明治自転車文化展(自転車文化センター主催 3月9日〜4月1日)に出品されたものである。その後、これらの自転車はそれぞれの所有先に戻っている。しかし、すべての自転車が現在もそこに保存されているか、不明である。もう明治自転車展から20年以上になるので、このへんで所蔵先の再調査が必要と思われる。

2 日本歴史資料館(京都)所蔵 前輪83cm、後輪80cm


 この自転車は、1981年にNHK総合で放送された「なにわの源蔵事件帳」(1981年10月14日〜1982年4月7日)に登場したガタクリ車のモデルになったものである。当時、大阪の高橋勇氏らがこのガタクリ車の製作に協力している。
 「なにわの源蔵事件帳」の原作は、 有明夏夫の小説「大浪花諸人往来」である。明治時代の大阪を舞台に元目明しの赤岩源蔵(二代目桂 枝雀)が、事件を解決していく話し。

3 一見前輪にペダルがないのでドライジーネのように見える
 西 昭二(三重)所蔵 前輪79cm、後輪71cm

 この自転車は、発見当初やはりドライジーネと間違えられている。1965年10月19日付けの中日新聞には、次のように載っている。

 世界最古の自転車?
 世界最古?という150年前の自転車が、津市内でこのほど開かれた自転車展示即売会に出品され話題を呼んだ。
 ドイツのドライス男爵が1816年に「ドライジーネ」(英国名ダンディー・ホース)という自転車を初めて作り、2年後に英国のジョンソンという人がこれを改良してサドルをつけたのがこの自転車という。ペダルはなく、またがって足で地面をけって走ったしろものだが、それでも時速15キロは出せたという。鋼鉄製だが車輪のリムやハンドルの一部には木が使われている。
 所有者は三重県多気郡大台町栃原、自転車商西昭二さん(38)で、近くの旧家から譲り受けたという。いま15万円で買い手があるが、西さんは「売る気はない」と断ったという。

 一目見てミショー型自転車とすぐ分かるのだが、当時の情報量では無理なのかもしれない。前輪のハブの部分をよく見れば、ペダルが欠落していることが分かったはずである。

4 ツチヤトレーディング鰹蒲L 自転車文化センター展示 前輪58cm、後輪57cm 

5 明治村(愛知)所蔵  前輪77cm、後輪71cm

6 ツチヤトレーディング鰹蒲L 自転車文化センター展示 前輪70cm、後輪64cm 

7 これは外国製のような感じがする。前輪が逆か? 泥除けであれば後ろにくる。
石黒コレクション 「図説 日本の歴史 14 近代国家の展開」昭和51年4月25日発行



 ミショー型自転車の所在先リスト

1 平塚市博物館 神奈川県平塚市浅間町12-41
2 日本歴史資料館 京都府京都市右京区鳴滝音戸山町4−5
3 自転車商 西 昭二 三重県多気郡大台町栃原
4 ツチヤトレーディング梶@113-0033 東京都文京区本郷7-2-9
5 博物館明治村 犬山市字内山1
6 ツチヤトレーディング梶@113-0033 東京都文京区本郷7-2-9
7 石黒コレクション 東京都杉並区
8 白浜海洋美術館 南房総市白浜町白浜628−1
9 江戸東京博物館 東京都墨田区横網1-4-1
10 トヨタテクノミュージアム 産業技術記念館 名古屋市西区則武新町4-1-35
11 小金井市教育委員会 東京都小金井市前原町3-41-15
12 加藤輪業 東京都調布市富士見町3丁目23−4
13 我楽苦多二輪資料館 河原 正 岡山市駅前町1-5-13
14 宮田工業梶@茅ヶ崎市下町屋1−1−1
15 広畑浅衛 岡山県玉野市八浜町波知
16 マリーンショップ 福山市
17 港区役所 東京都港区芝公園1丁目5番25号
18 徳島県立博物館 (中井隆雄所有)徳島県徳島市八万町向寺山
19 小西義信 宮城県石巻市  

 このリストは、一部30年前ぐらいの資料から作成しているので、現在もまだ所蔵しているかどうか未確認。

参考資料:

●「明治自転車文化展」 自転車文化センター 1984年3月9日発行

●「和製ミショー」大津幸雄
   日本自転車史研究会 会報”自轉車”84 1995年9月15日発行