自転車の歴史探訪

 
自転車税と鑑札

   私が子供の頃、自転車の後ろ泥除けのところに大きな番号の書いたプレートが取り付けてあったのを覚えている。当時は、そのナンバー・プレートが何なのか分からなかった。後になって、それが自転車鑑札というもので、現在の車と同じように税金を納めていたのである。しかし、昭和33年(1958年)になると自転車荷車税は廃止され、だんだんと自転車鑑札も消えていった。その後、ヘッドチューブのところに小さな楕円形の黄色いプレートが巻かれるようになったが、これは鑑札ではなく防犯登録票である。最近では、防犯登録票もシールに変わっている。

 私が、最後に自転車鑑札を付けた自転車を見かけたのは、15年ぐらい前で、神奈川県大井町付近をサイクリングしていた時である。70歳ぐらいの婦人が乗っていた自転車に付いていた。随分大切に自転車を使っていると関心したのを覚えている。やはり後ろの泥除け部分に大きな鑑札が取り付けてあった。外さずに30年以上もその自転車の一部のようになっていたのである。

 鑑札の交付は、いつ頃から始まったか分からない。恐らく課税と同時に何らかの形で納税を証明するものがあったはずである。当初は木製で焼印したものが使用された。大正の終わりごろからアルミ製に変わったようである。形や取り付ける場所も様々であったが、一般的には後ろ泥除け部分に着けられた。

ハンドル部装着用 自転車鑑札

自転車鑑札 後ろ泥除け部装着用 高橋 勇氏提供

 

 自転車に税金がかけられるようになったのは、明治5年である。すでに人力車や荷車には明治4年から課税されていた。

 寅次郎がラントン車を模造して、木製の三輪車の製作を始めたのが明治3年であるから、まことに早い課税措置である。明治新政府は、何でも取れるものから課税していったのである。

 自転車税の変遷は、下記の年表にまとめたので見ていただきたい。

自 転 車 税 年 表
西暦記     事
1871年 明治4年の太政官布告第265号により、まず東京府下で車税を徴収が始まった。
 今般東京府下道路修繕ニ付商売所用大小ノ車取入賃銀百分ノ三ヲ以テ右入費ヘ為差出候間在府ノ諸官員及華士族卒タリ共馬車人力車所持致候者右定額ニ準ジ入費可差出事
1872年 明治5年7月18日付けの東京日日新聞に、
 車税ノ儀別紙ノ通リ改正相成りニ付及廻達り也
 別紙  大車・自転車・日除車 一ケ月 六銭七厘宛
1873年明治6年、 国税としての車税が決定。 同時に付加税として府県税を徴収することが認められた。目的は「道路、橋梁之修覆或ハ貧民救育、小学費用、邏卒入費等二宛」とある。
 実施は明治8年で自転車1台につき1年で国税1円 ・東京府税1円
埼玉県、自転車 一ケ年 金九拾銭
1875年明治8年2月20日の大政官布告第27号に、「車税規則ヲ定ム」国税実施 税率1円。
 明治6年に制定された「僕婢馬車人力車駕籠乗馬遊船等諸税規則」は廃止された。
1876年明治9年、東京都の諸税収納触示中に自転車6両と書いてある。 同年3月22日、東京府達第52号 に「是迄諸車二賦課致來り候府税之儀国税ヨリ超過ノ分ハ其額ヲ減シ」とある。
1878年明治11年、地方税規則 自転車 金五拾銭(年税)
1879年明治12年7月29日、栃木県録事 乙第二百四号
  自転車ノ儀自今人力車ニ準ジ税金徴収候條車税規則ニ照シ新規売買譲与廃車共其時々郡役所ヘ届出検印受納可致此旨布達候事
1880年明治13年10月15日 大蔵郷(佐野常民)乙第35号 で「自転車税は各府県により車税として区々の取扱いであったが、人力車同様課税せよ」ということになり、各府県で全面的に課税されるようになった。
1887年明治20年 車税取扱心得発布
1892年明治25年 自転車台数約10,000台 国税3円、付加税もほぼ同額
1896年明治29年 国税を廃止し、地方税として府県で雑種税となる。
 市町村で付加税を課すことができるようになった。
1900年明治33年0月3日 埼玉県「県税納税者届出規則」制定
「課税物件を所有する者は、規則所定の事項を記載した書面をもって町村長を経由、部長に届出すべし」
 自転車に鑑札を交付。鑑札は自転車車体の見やすい所に付着すること。標札の提出に違背した者に対しては、5銭以上1円95銭以下の科料に処する。
埼玉県 雑種税として自転車税を新設し、34年から課税 税率年1円  明治37年度税額1822,000円
 明治38年度税額4869,000円
 明治32年度の県会で議員提出の新設案が否決。県が改めて「自転車は遊技的に使用する類もあろうが、商用にも使用されている。人力車や乗馬の如く多少職業的にという風でなくても課税しているので、それから考えても不当な課税ではなく、一税源にもなる」と、その理由を述べ可決された。
1919年大正8年選挙権が「25才以上の男子で、国税3円以上の納税者」に改められ、自転車の所有者は選挙権を得る権利が生じた。
1920年大正9年自転車税廃止運動起こる。
 全国の自転車台数205万台になる。
1927年昭和2年、自転車税廃止運動起こる。3月に東京上野の自治会館で代議員350人を集めて「自転車税撤廃全国大会」開催される。
 全国の自転車台数475万台
府県の雑種税と市町村の付加税を合せて平均7〜8円
昭和3年から漸次減税が行われたが、減税額も0.3〜0.8円程度であった。
地方自治体の収入は年間で4,000万円に達し、自転車税にかわる財源が見つからなかった。
1929年昭和4年8月 安達内相が地方長官に自転車荷車税の廃減を指示。
1930年昭和5年 道府県は自転車税の軽減を実施。(平均10%)
1939年昭和14年12月 政府が各府県に「臨時財政調整補助金」2,700万円を交付。自転車税に充当された。各府県の自転車税は引き下げられた。
1940年昭和15年 府県としての雑種税を廃止し、市町村のみが自転車税と荷車税の2つを徴収。
税率は市町村がそれぞれ定めた。年2円程度。
1950年昭和25年 標準税率が設定される。1台年200円となる。
1954年昭和29年) 自転車税と荷車税を統合して、自転車荷車税となる。
 標準税率年200円
1956年昭和31年 物品税新設反対運動起こる。
自転車荷車税とは別に5%の物品税を課そうという2重課税案が出る。
1958年昭和33年 自転車荷車税廃止。
市町村税の総収入の2%に過ぎず、事務手続き等の費用が多額となり、本来の目的である道路破損負担金としての性格がなくなったことによる。
 この年表は、自転車文化センターの資料を参考に作成したものである。 2008年2月29日作成

  参考資料:

●「私のコレクション T」高橋 勇
   日本自転車史研究会 会報”自轉車”2 1982年3月15日発行

●「日本の自転車史と鑑札」高橋 勇
   日本自転車史研究会 会報”自轉車”4 1982年7月15日発行