自転車の歴史探訪

 
明治の米国車があった

 明治32年頃から明治38年頃までにかけての日本の自転車市場は、アメリカ車全盛の時代を迎えていた。当時のアメリカには3,000以上の銘柄があり、特に日本ではクリーブランド、アイバンホー、スネル、デートン、ピアス、アイバージョンソンなどが人気車種であった。

 以前、現存する当時のアメリカ車を調べていたら偶然にも「リロイ」を見つけることができた。リロイはデートンやピアスほど知名度は低いが、間違いなく日本で販売された銘柄である。

 1995年10月22日、以前から明治時代と思われる自転車が河口湖の富士博物館にあるという情報を得ていたので尋ねてみた。

 この博物館は、山梨県の河口湖畔にあり、富士山麓の自然・人文科学と民俗性科学関係の資料を展示している。建物は富士講の信者が泊まる元宿坊(御師の家)で、400年前に建てられたものを移築したと伝えられている。1階は、富士信仰に関する資料、それに家具や農具など、山村農民の生活用具を展示。2階は日本では非常に珍しい民俗性科学の資料室で「天野コレクション」として海外にも知られている。

 当の自転車は、建物に入って左側奥に無造作に置かれていた。囲いも説明書きも何も無かった。はじめのうちは薄暗くてよく分からなかったが、段々目がなれてくると、確かに古い自転車であった。だが、どのような素性の自転車か、最初のうちはよく分からなかった。ところがヘッドチューブのところにエンブレムが残っていた。注意深く観察したところ何か文字のようなものが書かれていた。薄暗くて判読できないので、同博物館の管理人の方に懐中電灯を借り、その部分を照らした。すると微かに「LEROY」と読める。まさしく明治の自転車リロイ号である。全体的にかなり痛んでいるものの、ほぼ完全な形で残っている。最初サドルだけが欠損していると思われたが、下に落ちているのを見つける。それを定位置にのせる。ホイールは木リムで、サイズは28インチと思われる。スポークの数は32本、ハンドルのニギリもどうやらオリジナルのままのようである。チェーンホイールのパターン模様も以前何処かで見た独特な形である。保存状態は良いとは言えないが、土間には湿気吸収のためか小砂利が敷きつめてあった。

 総合的に判断して、明治31年頃の自転車だろう。既に100年以上経っている。リロイ号(レロイとも書いてある当時のカタログもある)は、アメリカのペンシルバニア州フィラデルフィアに工場があった会社でリロイ・サイクル・ワークスである。日本での取扱店は、神戸の横山商会などである。

 管理人さんの話によると、なんでもこの地方の医者が当時往診用に使っていたものと言う。ありそうな話である。

 その後、この自転車がどうなっているか確認していない。また、機会があれば尋ねたいと思っている。

明治の自転車リロイ



当時、輸入されていた主なアメリカ車
銘柄 メーカー名、製造年 取扱店
クリーブランド H. A. Lozier & Company, Cleveland OH, 1892-1899 伊勢善、仁藤商店
アイバンホー Canada Cycle and Motor Company, Toronto,Canada,1898-1904 石川商会
スネル Snell Cycle Fittings Company, Toledo OH, 1895-1899 石川商会
デートン Davis Sewing Machine Company, Dayton OH, 1895-1918 双輪商会
ピアス George N. Pierce & Company, Buffalo NY, 1895-1918 石川商会
アイバー
ジョンソン
Iver Johnson's Arms and Cycle Works, Fitchburg MA, 1896-1918 大阪
角自転車商会
ランブラー Gormully & Jeffery Manufacturing Company, Chicago IL, 1888-1900 濱田自転車店
リロイ Leroy Cycle Works, Philadelphia PA, 1898  神戸 横山商会
この表は、ザ・ホイールメンの資料を参考に作成
OH(オハイオ州)、NY(ニューヨーク州)、MA(マサチューセッツ州)、PA(ペンシルバニア州)、IL(イリノイ州)


参考資料:

●「やはり明治の自転車」大津幸雄
  日本自転車史研究会 会報”自轉車”85 1995年11月15日発行