穂高 屏風岩東壁 雲稜ルート

上田 治

日 時:2008812日夜発〜15

山 域:北アルプス・穂高 屏風岩

目 的:アルパインクライミング

参加者:L.上田(食料・装備)、大杖(気象・医療・記録)

タイム:8/13()上高地6:00集合出発〜横尾(BC)T4尾根取り付きまでの下見

    8/14(曇→雨)3:50 BC発〜4:20 渡渉終了〜5:10 T4尾根取り付き着〜

5:45登攀開始〜6:15 2P目開始〜6:45 ルンゼ〜

7時過ぎ雲稜ルート取り付き着〜8:15 2P目開始〜ビレイの場所変更〜

9:15 扇岩テラス着〜9時半頃雨で撤退決意〜

10:50雲稜ルート取り付きに戻る〜13:30BC帰着

    8/15() 下山、解散

 去年の9月、4名で挑んだが雨で渡渉できず、前穂高岳・北尾根に計画変更した。今回は、2名で再トライすることにした。

上田は、バスの切符が取れなかったため、812日に上高地入りした。小梨平キャンプ場でテントを張り、パートナーを待つことにした。夜間から明け方まで雨が降る。週末に天気が崩れる予報だが、山間部は既に崩れ始めている。

13日早朝、濡れたテントを畳んで上高地バスターミナルに向かった。

屏風岩東壁全景

既に、大杖は到着して待っていた。横尾を目指して6時過ぎに出発。歩いているうちにペースが速くなる。徳沢園で上田は、大杖のペースについていけずギブアップ。上田が先頭で歩くことにした。

8時半ごろ、横尾のテント場に到着。テントを干しつつ、下見の準備に取り掛かる。下見でアプローチのT4尾根も登っておくよう、坂崎代表からアドバイスを受けていたが、大杖と相談した結果、T4尾根自体の難易度が高いため下見にしてはリスクが大きいという結論に至った。北岳と同様に、登攀具を持たずヘルメットだけ持って、T4尾根の取り付きまで下見に行くことにした。

 岩小屋跡付近で横尾谷の瓦礫の土手を越え、渡渉点を探る。幸運なことに去年より水量が少なく、飛び石伝いで対岸に渡れた。中州から対岸へロープがフィックスされている。翌日の渡渉は日の出前になるので、フィックスロープを使って渡渉することに決めた。

 1ルンゼ押し出しを登る。行く手を塞ぐ大岩を乗り越えると、突然、東壁が現れた。沢の上部には雪渓が残っていた。雪渓の手前で、左岸の岩の裏から土手を登り、ブッシュをかき分け踏み跡を登る。渡渉からT4尾根取り付きまで1時間弱だった。取り付きから雲稜ルートも一望できた。T4尾根の登攀ルートおよびビレイの支点(ハーケンとリングボルトに9mmロープスリング)を確認しBCへ戻った。

 

 14日、2時半起床。うどんを手早く茹でて水洗いし、馬肉とねぎのつけ汁で食べて出発。暗闇の中、渡渉も難なく終えてT4尾根の取り付きに5:10に到着。既に、先行パーティ(3)のトップがリードしていた。彼らは、前日、雲稜ルートを登ったという。ボルトラダーの状況や屏風の耳への下降路について教えて頂いた。

 

 T4尾根の登攀

1P(W) 5:45登攀開始。リードは大杖から。残置があってもナッツでランニングを取っていく。出だしは、スラブと右に走るクラックをレイバックで登る。上部はガバ。続いて上田がフォローで登る。出だしのレイバックで左膝に痛みが走った。左足をかばおうとしたとき右足がスリップしフォールした。頭をこすったがヘルメットで怪我はなし。ナイスビレイに感謝します。

 

T4尾根2P目の登攀

2P(X-):上田がリード。ビレイ支点は、多数のリングボルトがある。白山書房のトポ通りかぶったクラックを登ればグレードはX-だろう。右側の緩い傾斜の壁を伝って登ったのでVくらい。凹角の抜け口は、落石注意。終了点は、ペツルとリングボルトでスリングが掛かっていた。終了点は、狭く落石の危険があったので、フォローで登ってきた大杖に、さらにルンゼを3mほど登ってもらい、安定したところでロープを解いた。立ち木に9mmロープで懸垂下降支点がセットされている。

3P(ルンゼ):急勾配の土と所々岩のルンゼを登る。登りながら懸垂下降の支点を確認した。

4P(V):チムニーとスラブだが、フィックスロープが張られていた。そのまま登る。数m登って広いT4テラスに出た。右下にT3テラスが見える。そこに先行パーティがいた。

 

雲稜ルートの登攀

1P(X):上田リード。ビレイ支点は、RCCボルト1とリングボルト2つ。ルートは50mもある。ランニングは自家製クイックドローのスリングを解いて長めにとる。クイックドローは、15本使った。カムを準備したが使わなかった。グレードはXが付いているがWだろう。出だしと最後以外は、ワイドなクラックに終始する。

 

雲稜ルート1P

ピナクルテラスは分かりにくい。ピナクル直下と上がったところの2箇所にテラスがあった。上のテラスに気付かずピナクル直下でピッチを切った。フォローの確保には不自由しないが、リードを確保するとき、ロープの流れが悪くなった。

2P(X+):大杖リード。X+のルートでロープの流れが悪いのは精神的に辛い。ピナクルテラスに上がって、ビレイし直すことにした。

ビレイ支点は、下のテラスが豊富。背後は何もないので楽な姿勢でビレイできる。上のテラスは、壁とピナクルの間に挟まるようにしてビレイした。

大杖は、右の草つきバンドをトラバースし、岩のバンドに乗り込む。途中、ハーケン1本あったがナッツでランニングを取った。ルートが分かりにくい。岩バンドから真上に登り、少し左にトラバースしてから左上するバンドに上がった。そこまで残置ハーケンが2本(45mランナウト)。左上バンドを登りきれば扇岩テラスに着いた。

ピナクルテラスの正面壁にリングボルトが打たれ直上できそう。昔のアブミルートだろうか。扇岩テラスで小休止していると雨が降ってきた。行動食を食べながら様子を見る。

3P(X+):雨がやんだので、登攀再開。上田がリード。1本目のRCCボルトまではフリー(50cm登る)。その後、リングが飛んだボルトの穴に4mmのロープスリングを通したボルトが続く。上部には、ペツルのボルトも輝いている。ボルトラダーのラインの直ぐ左横に5.11+のルートがあり、こちらはペツルのボルト。両方に掛けて登れば怖くない?3本目にアブミを掛けようとしたところでまた雨。ここが登れても、5P目のスラブが登れないと、どうやって懸垂下降すればよいのか?雨の中を懸垂下降するのは嫌なので撤退することに決めた。

 

撤退

下を見れば、後続パーティが1P目を登り終えたところだった。後続パーティに懸垂下降することを伝えてさっさと降りる。ロープ2本あれば、扇岩テラスからT4テラスまで2回で降りられる。ピナクル直下のテラスより3m位左下にハーケン5本の中継点がある。

上田が先に下りた。いつものようにロープを引いて回収できるか確認した。が、扇岩の縁でロープが屈曲し、いくら引っ張っても流れない。大杖がスリングを付け足し、岩の縁の外に出すとロープが流れた。他の撤退パーティは、どうしたのだろう?

T4尾根を下る途中、雨は間歇的に降ったり止んだり。T4尾根の下りもロープ2本結束して懸垂下降するのがベター。そのように懸垂下降支点が設置されている。落石に注意しながらT4尾根の取り付きまで降りた。

1ルンゼ押し出しの沢に降りて振り返ると、後続パーティは、4P目のトラバースをしているところだった。悔しいが、撤退してよかった。沢を下り始めると、その後、雨は止むことなく降り続いた。靴を脱いで渡渉したが、渡渉直後にさらに雨が強くなり、靴を脱がずに渡渉すればよかったと思うほどずぶ濡れになった。BCに戻って、うどんを食べていると雷鳴が響きだした。雨は、未明まで降り続いた。来年も来よう。

 

感想

大杖哲司

梓川の渡渉は昨年とくらべて楽だったがやはり冷たくて足が痛くなるのは毎度のことだ。ルンゼの押し出しを登っていくと夜明けになり雲稜ルートがよく見える。雪渓の手前でルンゼから右斜面の踏み跡に入るとすぐにT4尾根の取り付きだった。2ピッチを登った後はロープをしまって雲稜取り付きに直行した。1ピッチ目はセカンドで快適に登れた。2ピッチ目はピナクルを越えたところに確保支点を移して大杖がリードした。ここの出だしはやさしくない。残置支点も少なく、トラバースしてから登ったがナッツの支点ひとつだけでランナウトした。しかも微妙なムーブをしなければならなかった。ここは「日本のクラシックルート」でA1と記されていた。しかし残置支点がなければA1はあまり成り立たない。結局A1もA0もなく登った。3ピッチ目は残置支点が多そうに見えたのでわれわれのパーティにとって実質的な核心部は2ピッチ目と言えるのではないか。

扇岩で降雨のため下山になった。懸垂支点はあった。上田が降りたがロープが引けないようだ。鋭い岩角にあたっているためと判断し、長いソウスリングを継ぎ足して残置カラビナを下の方に垂らした。それで解決した。ホンチャンでの懸垂下降はなにかと問題が発生しやすいものだ。

屏風岩は大きい壁であるが、実質的な登攀部分は3〜4ピッチのようだ。この程度であれば雪彦でトレーニングしていれば問題はない。しかし登る技術だけではない総合力を要することは言うまでもない

これまで屏風岩雲稜ルートの計画は何度かあったが私は参加できなかった。昨年は梓川が渡渉できずに前穂高北尾根に切り替えた。今年は雲稜ルートに取り付くことができたが悪天のため2ピッチを登って下山した。次に行くことがあれば完登したいものだ。

1ルンゼ