北岳バットレス 第四尾根下部フランケ〜主稜

上田 治

日 時:2008730日夜発〜81

山 域:南アルプス・北岳

目 的:アルパインクライミング

参加者:L.上田(気象)、玉井(食料)、大杖(医療・装備・記録)

タイム:7/31(晴)6:10広河原合流〜6:30出発〜第1ベンチ7:40〜御池小屋(BC)9:00

取り付き下見〜14:00BC帰着

    8/1(晴)2:55 BC発〜4:40 Dガリー取り付き着〜5:15第五尾根支稜登攀開始〜

7:20下部フランケ登攀開始〜11:00ピラミッドフェース終了点着〜

11:35主稜4P目から登攀開始〜14時過ぎに枯れ木テラス着〜

14:55 Cガリーへ懸垂下降開始〜16:25主稜登攀再開〜

17:40北岳頂上着〜19:30 BC帰着

    8/2(晴)8:00下山開始〜9:30頃広河原着〜10:20解散、バス乗車

 

去年の7月の三連休に、玉井、上田で北岳バットレスを計画したが、天候不順で中止した。今年は、大杖が参加して、メンバーは三人になった。効率を考えて1ルートを一人がリードすることにした。即ち、下部岩壁〜第四尾根下部フランケ(以下、下部フランケ)を上田、次に、上部フランケを大杖、最後の中央稜ノーマルルート(以下、中央稜)を玉井が担当する計画を立てた。さらに登攀スピードを速くするため、リードが背負う荷は最低限にとどめ、リードの靴や雨具などをフォローの二人が分担して担ぐことにした。

北岳バットレス

 730日夜、上田は、ムーンライト信州で、玉井、大杖は、玉井の自家用車で目的地に向かった。316時過ぎに、広河原で合流し御池小屋に向かった。上田は、GW以降、御在所の縦走1回きりだったため、ボッカ力に不安があったが、思っていた以上に足が軽くよいペースで歩けた。御池小屋で、午前中からテントを張るのは我々だけだった。ハイカーが数パーティー居るだけでクライマーの姿はない。期待通り翌日のバットレスは、貸し切りだった。テント設営後、早速、下見のため大樺沢に降り、Dガリーに向かった。

一般道を登っている途中、白い雪渓が樹林の合間からちらりと見えた。例年に比べようもないほどの残雪がある。Dガリーの状態が気になる。小屋の話では、三連休に登ったパーティーがいて、いつもより時間がかかったという。沢の横断以外は、夏道を歩いた。バットレス沢の出合で雪渓を横断し、ほんの少し登って一般道から外れC沢(Cガリーの下部)の右岸に沿って沢の源頭部まで登り詰めた。源頭部は、厚い雪渓に覆われているが、Dガリー取り付きから上部は雪がなさそうだ。

三人で下部岩壁の攻略について検討する。下部岩壁の登攀で時間をかけたくないので、最も容易に登れるところを探すことにした。第一候補として、第五尾根支稜を上がり、その状態を見ることにした。取り付きへは、岩のバンドを10mほどトラバースしなければならないが、岩が脆く非常に悪い。みんな移動疲れと睡眠不足のため、下見では登攀しないでおこうと決めて、登攀用具すべてをテントに置いてきた。ヘルメットは持ってきた。ここは一旦引き返して、次に雪渓の左に回って第五尾根を調べることにした。

下部岩壁帯(左がDガリー)

 第五尾根の下は、一面雪渓で覆われ雪を踏み抜く危険があった。第五尾根の直下には行かず、尾根の左側のガリーから取り付けないか探った。傾斜が緩いのでどこからでも登れそうだが、慎重に二つのルートを検討した。左のフェースから登るルートは、傾斜が緩いせいか、ピトンが少ない。その上部の岩のホールドは細かそう。もう一つのルートは、右上するバンドに沿って登り、第五尾根のリッジに上がるのだが、上部がかぶっているように見えた。三人とも登った経験がないのでどちらも却下となった。結局、ロープで確保すればイケルやろということで第五尾根支稜を登ることにする。

登り始めるルートが決まったのでBCに戻ることにした。来た道を戻るのではなく、ガレ場に踏み跡を探しながら降りることにした。かなり下ったところで大岩の上に出て行き詰まった。左手に踏み跡らしきバンドがあったので、辿ってみたがこれも行き詰まった。玉井が大岩の右側に踏み跡を見つけて一般道に出ることができた。

 

 81日、2時に起床、腹に餅を入れて3時前に出発。上田が先頭を歩いたが、ヘッドランプの視野が狭く、二三回道を間違う。が、それでも予定時刻前にDガリーに着いた。

下部岩壁(第五尾根支稜)の登攀

1P:十字クラックルートの下にあるハーケン2本で玉井がビレイし、上田がトラバースを開始した。カムでランニングビレイを取ったが、リッジを回り込むと残置があった。Dガリー大滝と第五尾根支稜の共通ビレイ点には、ハーケンが2本ある。

2P(V):第五尾根支稜の1Pである。出だしの登りにくい垂壁をなんとかクリア。Vにしてはむずい。左上の赤いスリングを目指して登る。

3P(V):ブッシュ混じりの岩を右上し、岩のバンドに沿って右よりに進む。ここで、ロープを解く。

 

第五尾根支稜2P

 徒歩で、左手に見えるDガリーに向かった。Dガリーに詰まっている大小の石を乗り越えていく。かなり大きい石でも浮いている場合があるので要注意。Dガリーを20mくらい登り、右手の広いバンドに上がる。大岩にリングボルトが打たれているが、これは懸垂下降に使った支点だろう。さらにバンドに沿って進んで下部フランケの取り付きに到着した。

下部フランケの登攀

ビレイ支点は、ハーケン1本?広いせいか、確保用の支点がない。玉井が落ちていた曲がったハーケンを大杖に渡す。大杖は、それをハンマーで伸ばして打ち足した。

1P(Y):草つきを登って、垂壁から舌を伸ばしたような残置ハーケンにクリップする。これは、素手で引き抜けそう(いや、できると断言できる)。とてもA0で登る気になれない。左の凹角を登ろうとしたが、クラックがなくカムをセットできない。玉井の提案で、べろハーケンの右手のバルジから取り付くことにした。細かいカチに乗ってバランスを保ちながら残置ハーケン2本目にクリップ成功。下から見る限りよく効いていそうだ。A0で岩のバンドに上がり、右にトラバースした。続いて、玉井、大杖の順にA0で登る。

2P(W):ここは、リングボルト2本にハーケン1本。支点の不安から解消され、凹角に走るクラックをレイバックで登る。トポには、15mと書かれていたので、横に走るクラックにハーケン2本打たれたところでピッチを切ってしまった。あと3mくらい頑張ればまともなビレイ支点に辿り着けたのに。

3P(W+):本来のビレイ点を通過して、上部に岩が詰まった凹角を登る。残置が多く、こまめにランニングビレイを取ると、クイックドローを使い切ってしまいそうだ。チョックストーンの左に上がり、草つきを登って、ダケカンバのテラスに上がった。

4P(W+):ここも3P目と似たような凹角。凹角の上部には、ハングがあり左に出た。続いて逆層スラブを登った。終了点は、ハーケン2本(だった?)の狭い岩のテラス。

5P(V):上部フランケに継続登攀するため、草つきバンドを左にトラバースしなければならない。が、周囲を見回しても草つきバンドが見当たらない。頭上にはかぶった岩があるので一応トポと合っている。左上にスリングの掛かったハーケンがあるので、登ってみることにした。出だしのスラブは難しく、残置ハーケンにクリップしようと試みるが、幅の広いテープスリングがタイオフされており、カラビナをハーケンの穴に掛けられない。短気が出て、古いスリングをナイフで切って捨てた。クイックドローを掛けてハングドッグでルートを探したが分からない。ルートから外れたのか?登り足りないのか?迷ったあげく、右手にルートらしき跡を見つけたのでそちらに進路を変える。少しだが登ったスラブから下りるのは一苦労だった。

 

 

1P目スラブ直下

3P目のハング

4P目のハング

4P目のクラック

今度はスラブの右に回って、岩の段を登った(ここでピラミッドフェースに入ってしまった?)。要所に残置ハーケンがあったのでランナウトはなかった。ロープの残りの長さを気にしながら登っていくと、ピラミッドフェースの頭の下に出てしまった。残置ハーケン2本がスラブのリスに打たれていたので、そこでピッチを切った。念のため、右手の岩のアンダーにカム(2)を効かせバックアップを取る。

6P(V):ここまで来てしまったら、もうピラミッドフェースの頭に出るしかない。最後の数mを登って終了。ピラミッドフェースの頭のテラスは、広くてブッシュが豊富なので休憩によいところ。

行動食を食べながら、登ってきたルートを振り返ってみるが、左にトラバースできそうな箇所は思い当たらない。玉井が、テラスの左端の這松から懸垂下降している跡を発見した。おそらくここから上部フランケの取り付きに降りているのかもしれない。そうだろうか?下部フランケの終了点に降りることになるかもしれない。ここを降りるか否かを討議した。確証を得られないまま突っ込んで時間をロスしたくなかった。また、次のリード担当は大杖で、北岳バットレスは今回が初めて。ルート変更して第四尾根主稜をリードしてもよいという。大杖の寛大さに感謝して、第四尾根主稜から中央稜に継続することにした。

 

第四尾根主稜の登攀

大杖にリードを交代。ピラミッドフェースの頭の下を右に回ると、第四尾根主稜(以下、主稜)のビレイ点にでた。白い岩が続く。

1P(V):登攀再開。尾根の左側の白い岩を登り、第一のコルに出る。

2P(V):緩いリッジを登り、3mの垂壁手前でビレイ。

3P(X〜V):三角形の垂壁は、つるつるだが手ごろな箇所にスタンスがある。34年前に登ったときより残置ハーケンの数が少なくなったように感じた。ここは、右に巻いて(V)さっさと通過する。垂壁の上に出ると、左右がすっぱり切れたリッジを登る。爽快な気分でマッチ箱のピークに到着。ここからロープ1本で尾根の左側に懸垂下降する。

4P(W):岩の色が白から赤紫に変わった。北岳は、穂高連峰のような灰色一色ではなく、岩の色の変化を楽しみながら登ることができる。右壁にランニングビレイを取りつつ凹角に沿ってリッジを登る。ロープが余っていたので、本来のビレイ点を通過して右のカンテ手前でピッチを切った。フォローのビレイは、鋭くとがった岩角にスリングを巻きつけて行った。

5P(X):右のカンテに入らず、左の草つきの凹角を登ればV+である。が、右に入ってしまったのでXのカンテを登る。しかし、登ってみてXもないと感じた。枯れ木テラスでピッチを切って、中間部の登攀を終え休憩する。

 

 

ピラミッドフェースの頭を右に

三角形の垂壁(X)

4P目のコーナー

Cガリーへ下降

目前にそびえる中央稜は、岩全体が黒い。この切っ先が北岳の頂上であるが、Cガリーの上部には、まだ雪渓が残っていた。予定時刻より1時間ほど遅れているが、断念する程でもない。中央稜のリードは玉井が担当する。懸垂下降のテラスは、浮石だらけなので一人ずつ降りて懸垂下降することにした。枯れ木テラスのビレイ点(ハーケン4本にスリングが掛かっている)から懸垂下降支点までのフィックスロープ(9.5mm)をつたって玉井が降り、懸垂下降の準備を行う。50mロープ2本を結束しロープダウン。

 

懸垂下降テラス

懸垂下降開始。落石をおこすたびに不気味な音がこだまする。Cガリーに着地後、そこでロープを引いて流れ具合を確認する。残念ながら期待に反してロープは流れなかった。何度もロープを引くがびくともしない。大杖が降りて調べる。フィックスロープが干渉してロープが流れにくくなっているようだ。さらに、岩の割れ目にロープ2本とも挟まっている。割れ目に石を埋めてみるが、それでもロープは流れない。スリングを繋げて伸ばしておくべきだった。あれこれやってみるが状況は変わらず時間だけが過ぎて行った。相談した結果、中央稜を断念し、玉井は登り返すことにした。空中懸垂では、普段の練習時のようにスムーズに登り返すことが出来ず手間取った。玉井が無事登り返した後、主稜を登攀し、頂上に抜けることにした。玉井がリードを買って出たが、大杖に続けてリードしてもらうことにした。

 

第四尾根主稜の登攀再開

6P(V+):最終ピッチ。枯れ木テラスから岩の溝を跨いで登り、スラブに上がる。スラブを数m登ると広いところで幅1m近くらいある溝に行き当たる。右側の幅の狭くなったところで溝を渡り、脆そうなスラブを登って登攀終了。

終了点から2030m(U)登ればテントが張れる広場に出る。ここで大休止し、荷物を整理した。左に伸びる踏み跡をたどれば、頂上の左の稜線に出る。稜線に上がる手前のザレ場は、地面が脆くなった箇所があるのでスリップと落石に要注意。二三分で頂上に到着。中央稜からのトレースを見つけて、来年こそは、ここから頂上を踏もう。

 

 

記録

大杖 哲司

200881()

02:55 御池小屋のテント場を出発

04:40 取り付き(シュルンドの上)着

 

下部岩壁(第五尾根支稜)の登攀

05:15 上田リードでトラバース ビレイヤー玉井

      ランニングビレイをキャメロットでとる。ガスが晴れて陽がさしてくる。

05:40 大滝を過ぎて第五尾根支稜の取り付きのビレイ点  ビレイヤー大杖

06:05 第五尾根支稜上のビレイ点(赤いスリングのある) ビレイヤー玉井

06:40 第五尾根支稜上のビレイ点 下部に雪渓が見える 

      コンテで第四尾根下部フランケの取り付きへ向かう

 

下部フランケの登攀

07:20 1ピッチ目下部フランケの取り付きから1ピッチ目の登攀開始 ビレイヤー大杖 ビレイ支点がハーケン一本なので玉井が拾ったハーケン(曲がって変形した)をハンマーで打ちつけてまっすぐにして打ち足した。         

07:50 2ピッチ目1ピッチ目の終了点 リングボルト2本とハーケンの支点

      2ピッチ目のビレイヤー玉井  このピッチ凹角

08:25 3ピッチ目2ピッチ目終了点 ハーケン2本のみの支点

      3ピッチ目のビレイヤー大杖 このピッチも凹角

09:00 4ピッチ目3ピッチ目の終了点 ダケカンバの支点 安定した広い場所

      ハーケンありカム・ナッツも使用可能 4ピッチ目のビレイヤー玉井

09:40 5ピッチ目4ピッチ目の終了点 このピッチで間違ってピラミッドフェースルート上に出てしまう このピッチのビレイヤー大杖

11:00 6ピッチ目5ピッチ目終了点から少し登ってテラスに着く 玉井が偵察し懸垂下降支点をみつけた。 ここを下降してフランケに戻るか否か協議した結果、第四尾根主稜経由で中央稜に向かうことに決まる。第四尾根主稜は大杖がリードすることにした。このピッチのビレイヤー玉井。

 

第四尾根主稜の登攀

11:35 休憩後テラスを出発 少し登ったところが第四尾根主稜ルートの3ピッチ目(白いクラックの終了)のビレイ点であった。

12:20 フェース手前

12:55 マッチ箱をロープ1本の懸垂下降で終了し、2ピッチで枯れ木へ登る。

 

Cガリーへ下降

14:55 中央稜に向かうため枯れ木のテラスから懸垂下降開始 下降点に浮石多く また支点はハーケンのみ 手前のビレイ点から4mほどのバックアップロープがあるも、そのビレイ点もハーケンのみ 

16:00 玉井が空中懸垂(10m余)を含めてロープ一杯(約50m)下降しCガリーに降りたが下からロープが引けない 支点のカラビナ2枚の間にバックアップロープが通っており摩擦が強い また途中のクラックに懸垂ロープが入って摩擦を強めている。玉井はユマールで登り返す。

 

第四尾根主稜の登攀再開

16:25 枯れ木のテラスから第四尾根主稜を大杖が再び登り始める。

17:20 2ピッチ登って登攀終了

17:40 北岳頂上

19:30 テント場着

 

 

 

第四尾根下部フランケ登攀ルート

 

写真上の登攀ルート