錫杖岳・見張り塔からずっと

参加者 L:坂崎、玉井、上田

@コースタイム

8/11 天気 晴  西宮0500発〜(名神・東海北陸)〜平湯(10001230)上田と合流〜中尾温泉駐車場(12501340)周辺の無料駐車場を含めて満車だったが、リーダーの営業力で某所に駐車出来た〜錫杖沢出合着1510、テント設営、下見に出発直後1600頃から夕立でしばらく降雨、下見は中止して帰る。

 大した渋滞もなく10:00に平湯に着く。上田との合流までに時間があるのでゆっくりする。資料館休憩室は隠れた穴場、畳もあり寝転がることもできる。人もいないのでゆっくりできる。上田と合流し中尾温泉口へ。ところが駐車場が満車。深山山荘駐車場へ向かうがこちらも満車。いきなりえらいこっちゃ。再度下り、中尾温泉口駐車場が空くのを待つ。地元の方のご厚意により駐車場を確保できる。感謝です。重い荷物を担いで1回の休憩でテント場へ。テントは6~7張り。テント場を確保し、上田と2人下見に出かける。ところが雨が降り出し樹林への入り口だけ確認しテント場へ戻る。今回は好天に恵まれたと思っていたのに、明日壁が濡れていないか心配になる。玉井シェフの料理を楽しみ、明日に備え早々と寝る。

 

8/12天気 晴  起床0300〜朝食後0400出発〜北沢大滝下(04550530)〜坂崎が16ピッチをリードする〜大洞穴(09000920)〜玉井が712ピッチをリードし〜錫杖岳頂上(13501420)〜稜線を南尾根を下り、コルから牧南沢を下る〜錫杖沢出合1710

 予定通り3:00起床。気が張っているからか朝が弱い坂崎が皆を起こす。準備ができた玉井が先行する。上田、坂崎が遅れて出発。取りつきには一番に着くことができた。壁は濡れていない。これで言い訳はできない。後は登る者の力のみ。3人で記念写真撮影後、坂崎リードで登り始める。

1ピッチ目 大滝沿いを掛かりのよいフレーク使って登る。15mでテラスへ。残置ハーケンだけなのでエイリアン、ハーケンを打ちたしビレー。ハーケンは効いていない。不安定なビレー点。

2ピッチ目 大滝沿いスラブを登る。(残置支点あり)本来なら途中からハンガーボルトのあるカンテを登るが右側から巻きぎみにトラバースしビレー点へ。残置リングボルト2つ。(40m

3ピッチ目 凹角左の易しいルートから登り、ガレ場のテラスでビレー。キャメロット、エイリアンでビレー点作成。(35m)本来のルートは大滝沿いに階段状を15mほど伸ばすのであろう。

4ピッチ目 左上ぎみにいく。本来のルートから外れる。ランニングがとれない。これが八ヶ岳の溶岩?岩がところどころ剥がれる。ルートは易しいが思いっきりランナウトで嫌な緊張感がある。ただ焦りがなかった。キャメロット、エイリアンでビレー点作成。(45m

5ピッチ目 右上ぎみにいく。ここもランニングビレーがとれない。ナイフブレード2枚でビレー点作成。このナイフブレード2枚は回収できませんでした。(45m

6ピッチ目 本来のルート目指して右へ回り込むと残置支点があり、そこから草付きへ。中央稜が確認できる。岩角でビレー。(45m)

 コンテで大洞穴へ。烏帽子岩が大きく聳え立っている。中央稜の踏み跡からコルを目指し、ここからトラバースし右俣ルンゼを登り、大洞穴下へ。ここはお花畑になっている。大洞穴を登る緊張感もあり、花を楽しむ余裕はない。果たしていけるのか。大休止するが、ここで日が照ってきて暑い。疲れてしまう。

7ピッチ目 全てのギアを担いで玉井が登り出す。出だしから被っている。一部壁が湿っている。ハーケンを打つが効いていなくて、回収中岩が剥がれる。気を持ち直して登る。立木でランニングビレーをとる。ここで一息。この後Zクリップになってしまう。松の木からはハンドサイズのクラックが続く。カムもばっちり決まる。テラスへは右側から登る。草付きがなければより快適であろう。残置RCCボルト、チョックストーンを利用しビレー点作成。注文の多い料理店のお地蔵テラスみたいです。

8ピッチ目 いよいよ核心です。出だしの凹角のクラックにカムがよく決まる。凹角を抜けるとトラバース。ホールドはガバであるが、ランニングビレーをとることができないので緊張する。トラバースから左上するところでロストアローを打つ。体勢が悪くしんどそう。でもビレー点は欲しいところ。左上し残置ハーケン、チョックストーンを利用しビレー点。

9ピッチ目 どこでも登れそうなところを上部壁基部へ50mいっぱい。落石注意。50mが短く感じる。ハーケン、キャメロットでビレー点作成。ここから錫杖岳ピークが見えるが残り2ピッチでいけるのだろうか?(上部壁右端には残置ピンが2本ある。ここからだと残り2ピッチで行ける。)

10ピッチ目 壁の基部から草付きルンゼへ。ハンマーが大活躍。立木でビレー。

11ピッチ目 草付きルンゼから最後の頂上クラック手前まで。若干ロープが足りない。10ピッチ目をもう少し伸ばすべきであったか。立木でビレー。

12ピッチ目 ピークへ抜けるクラックは右と左に2本ある。初め右から登り、左へ移ってからまた、右側に変更するという不細工なルートを取ってしまった。クラックを抜けるとピーク。本当に錫杖岳のピーク。岩角でビレー。

狭いところに3人が立つ。予想以上に素晴らしい。360度の景色。これぞ醍醐味。記録では読んでいたがこんなにも素晴らしいものとは!3人お互いに握手を交わす。久し振りの握手。これを味わいたくて山をやっているところがある。念のため半マストで確保し登山道へ。ピークの裏側が登山道になっている。意外としっかりとした踏み跡がある。ここでハーネス、ルベルソ以外の装備を片付ける。8時間30分こんなもんでしょう。

下山ルートは一部間違えたものの道はしっかりしているし、赤テープも所々ついている。岩塔の一部が崩壊してザレた沢の源頭部を懸垂下降。この辺から概念図とのイメージが合わなくなる。赤テープに導かれ牧南沢へ下るコルに着く。牧南沢の下りはじめは急な笹まみれでしんどい。クリヤ谷への下りみたいです。下っていくと本峰フェースが見えてくる。「湯の街奥飛騨ぶらり旅」の全景が見えたがすごいルート。レベルが違いすぎて登攀意欲もわかない。錫杖岳ピークが小さく見える。中央稜末端壁もすごい。とにかく景色が素晴らしい。途中の湧水で喉を潤す。これはうまかった。テント場までは長かった。疲れてしまった。明日は上田メインで左方カンテを登ることにし眠りに就く。

 

8/13天気 晴 起床0600(左方カンテの予定であったが前日の疲れで中止)〜出発0825〜中尾温泉駐車場(094045)〜平湯温泉1010〜温泉に入り、反省会のあと解散

 4時起床予定であったが寝過ごし430分起床。皆の疲れもあるので登攀は中止にし、6時まで寝ることにする。クリヤ岩小舎空いていればトップロープで登ろうかと思ったが、タープを張り貸し切り状態でしたので、岩場を確認し下山する。今日もいい天気だ。前衛フェースがきれいに見える。登る力をつけて連チャンで登れるようにならないといけない。

 駐車場のお礼を言い、平湯温泉で汗を流し反省会を行い、上田と別れ帰路につきました。帰りも大した渋滞にあうこともなく順調に帰ることができました。

 

A反省会の記録

L坂崎:当初は欲張った計画をしていたが、目標の一つが登れてよしとしよう。トレーニングが少なかったが、中原さん、渕上さんの情報があったので登れたものだ。

上田:錫杖は初めてで無事に登れて良かった。岩場としては大きい。北岳よりスケールが大きかった。右手ひとさし指を、ロックハンマーで草付きを登っている時に岩で打ってしまった。ハーケン2本回収できず残置したのが残念だ。

玉井:2年ぶりの錫杖だったが、目標が登れて良かった。後半の核心をリードさせてもらったが、大洞穴の登り始めがしんどかって登れないのではないかと思ったが何とか登れて良かった。Zクリップをしてしまったが、下のメンバーもしっかり見ておいてほしい。

 

ヒヤリハットについて

@     玉井が「見張り塔からずっと」の7ピッチ目の登り始めでランニングビレー用のハーケンを打ったが、岩が浮いていたので回収しようとした時に岩が剥がれて落下した。下でビレーしていた上田の右太ももに破片が当たったが、痛みや外傷はなかった。クライマーの「ラクッ」のコール、ビレーヤーはクライマーの動きをしっかり見ていたこと、ビレイヤーの確保する位置がよかったので大事には至らなかった。ビレイヤーの確保する位置が悪ければ、岩の破片が直接当たっていた。

A     2ピン目、3ピン目のクリップでZクリップになり、ロワーダウンで手直しをした。クライマーの玉井がロープの流れが悪く重たいので異変を感じZクリップに気付く。本来なら3人パーティーであるので、ビレイヤーの上田、サードの坂崎が気付き指摘するべきところです。ビレイヤーの上田からは見えない位置ではありました。坂崎からは逆光で見にくかった、核心部であり抜けることができるかということに意識がいっており、Zクリップに気付かなかった。今後の対策は、クライマー、ビレイヤー共にセットが正しいかチェックする。ただ、厳しい場面ではクライマーは登ることに意識がいくので、ビレイヤーのチェックが大事になります。

B     上田は草付きでロックハンマーを使っていたが、その際右手ひとさし指を岩に打ち付けた。痛みと出血があった。

C     登攀終了後ギアを整理し、坂崎がザックの雨蓋と本体の間にロープを挟み込んで下山していたところ、挟み込んでいたロープを落としました。落した瞬間は気付かずしばらく行ってからロープがないことに気付き、5分ほど登り返しロープを発見する。対策としては、ザック本体とロープをカラビナ等で連結し落ちないようにする。

 

リーダーとして

坂崎 智明

@     計画段階

当初予定は10日夜出発、11日登攀、12日見張り塔からずっと、13日元気であれば登攀という欲張った計画でした。5日ミーティング後帰りながら、冷静になって考えていくと、今のトレーニング状況では無理な計画であると気付く。玉井さんも同様に考えており、訂正案を送ってきてくれた。10日夜行出発の時間が遅く十分な睡眠時間がとれない、坂崎仕事都合で出発が更に遅れるかもしれない。「見張り塔からずっと」をメインに考えているので体力面も考え、11日早朝出発し、11日は移動プラス下見、12日朝一で取りつく計画に変更する。リーダー自身久し振りの本チャンであり、気持ちが舞い上がっており、現状の実力も考えずあれもこれもと欲張り、冷静な判断ができていませんでした。

A     トップの決定

トップについては16ピッチを坂崎、7〜ピークまでを玉井としました。見張り塔からずっとは残置支点がほとんどないルートであり、ルートファインディング、ピッチの切り方、ビレー点の作成が大きなポイントになります。上田さんはまだ本チャンの経験が少ないので、リードは諦めてもらいました。核心については一番力のある玉井さんにお願いしました。ピッチの切り方が下手であるともっと時間が掛かっていたことでしょう。これまでの残置を追う登り方とは違う楽しさがありました。

B     3日目の行動決定

4:00起床であったが寝過ごして4:30になってしまう。皆疲れが残っており、上田は翌日から西穂高からの縦走もあるので下山のみとしました。上田にはリードをしてもらいたかったが、手の指を痛めていることもあり無理をさせることができない。もっと体力をつけなければいけませんね。

 「見張り塔からずっと」を初めて知ったのは岳人のクロニクルでした。その記事を見てからずっと行ってみたいと憧れていました。2年前にも計画を立てましたが、現地で雨に降られて登れませんでした。もしあの時晴れていたとしても、情報不足もあり敗退していたことと思います。今回は、前週入山した中原さん、渕上さんパーティーの情報により、ルートを把握することができたのが登れた要因です。

 

錫杖岳クライミングを終えて

玉井 進吾郎

 2年ぶりの本ちゃんクライミングであった。その時も坂崎君がリーダーで錫杖の「見張り塔からずっと」を目標にしたが、残念ながら雨で左方カンテを登って北沢大滝の取り付きを確認しただけであった。

 今回は上田君が加わり3名で臨んだ。1週間前に渕上、中原さん等がこの「見張り塔、、、」を目指したが、あいにく台風5号の雨の直後であったため壁の状態が悪く下部岩壁だけで終わったとの報告を詳しくいただいた。今週に入り太平洋高気圧が張り出し、晴天が続き始めるという絶好の天気となった。あとは実力のみであるが、これが一番の不安要素になるのが今のメラの現実である。

 入山日の夕方に激しく降った雷雨で濡れた壁も乾いており、岩のコンディションはいい具合である。北沢大滝から坂崎君が下部の6ピッチをリードした。どこでも登れそうだが、ランナウトに加えて確実なビレー点がない。古いハーケン1本に3人の命を託したり、触ったら直ぐに外れるカムなど、久し振りに気色の悪いクライミングであった。中央稜を越えて初めて大洞穴と頂上が見えた。7ピッチ目からの上部のリードを任されていたので見た瞬間、大洞穴に威圧されてしまった。案の定取り付き始めで梃子摺ってしまった。ハーケンを打った時、浮いた岩が剥がれて落ちたが、幸い下の仲間にケガがなくて良かった。先週、雪彦山の弓状クラックの失敗で経験したことが頭を過ぎる。ホールドは豊富だが、ビレー用のカムが決めずらい。カムやナッツのギア類が重たく身体が上がらない。何とか松の木まで登ったが、ロープが重くZクリップしていることに気付いた。自分の失敗を棚に上げ、フォローに下から何で注意してくれへんのや、、、と怒鳴る始末だ。上のクラックは快適、快適。8ピッチ目は凹角の中のクラックを登り、右へフェースをトラバースし再び左上して行く。このピッチはフェースにカムも入らずロストアローを1本お呪い替わりに打っただけで緊張したが、ホールドは掛かりが良かった。9ピッチ目は2級のスラブを上部壁目指して登って行く。10ピッチ目は右へトラバースしてから草付きルンゼを登り、桧の木でビレーする。トポではここから頂上まで一気に登っているが、11ピッチ目を頂上岩壁取り付きで切った。12ピッチ目はクラックの入った頂上岩壁を15mほど登って終了した。登り切ったところが錫杖岳の頂上という何ともすっきりしている。3人で握手を交わし、槍ヶ岳から右に続く穗高連山の素晴らしいロケーションを楽しんだ。坂崎君の感動している横顔が印象に残っている。彼はこの2年仕事内容が変わり、家庭の安寧のために苦労が続く日々だったろうが、これで少しは報われたのではないだろうか。上田君は関東から3回も雪彦山に来て一緒にクライミングを行った。今回リードは一度もしなかったが、これで錫杖の概念も分かっただろうからこれからはドンドン登っていただきたい。

 久々に充実したクライミングを反芻しながら牧南沢を下り錫杖沢出合に向かった。錫杖で自分に登れるルートはどこがあるのだろうか? 重いギア類を担いでのクライミングは限界だな? これからはフリー専門にやるか? 等と思ったりもした。帰路は結構時間がかかった。

 

 

見張り塔

上田の感想

 私にとっては、ガイド登山ではない初めての本チャンになった。それ以前には、八ヶ岳・天狗尾根(単独)や赤岳主稜(川崎労山)を経験したが、前者は、バリエーションで登攀的要素は少ない。後者は、一度ガイドに引率されて登ったルートの再トライであった。今回は、錫杖岳への入山が初めてであり、しかも開拓されて間もないルートを会の仲間と登れたことに大きな意義があった。初めての山域であるため、リードの順番こそ回ってこなかったが、安全は自ら確保しなければならないことを意識して、危険回避を心掛けた。試すように何度か危い場面に遭遇したが、大きな事故に至らず、その対処方法はベストと言えなくとも誤ってはいなかったと思う。天気に恵まれたことも幸いだった。

 6P目終了後、中央稜を乗越し右俣沢へ下るまで藪漕ぎがある。その先頭を任されたが、踏み跡がないので行き詰った。トポは頭に入れていたが、勘が働かず中央稜を乗越す地点が見当付かない。行き詰まった所で坂崎さんと玉井さんに交代。二人が十数メートル程トラバースして乗越す地点を見つけた。踏み跡は、私たちが辿った所より下側を大きく右に巻いている感じだった。

 自分のミスとしては、頂上直下の草付きルンゼを登るとき、不注意で指の爪を割ってしまったことである。スリップによる滑落を防ぐため、ロックハンマーを刺して登ることは問題なかった。愛用しているグリベリのハンマーは、小型のピックが付いている。草付きにピックを打ち込む動作を繰り返しているうち、注意力が散漫になって草に隠れていた岩に気付かず、ハンマーを持っていた右手人さし指を叩きつけてしまった。おかげで、翌日の左方カンテを辞退せざるを得なかった。